アーモンド |
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5月の風が頬をなでる。 クリフトとアリーナが通る道沿いに、咲き誇るアーモンドの花が風に舞う。 「はあ、こんな爽やかな日にエンドールまでお使いだなんて…。他に行く人いなかったのかなあ…」 「ブライ様はもうお年ですし…」 「本人が聞いたら怒り爆発ね」 「女官長様は、儀式の準備でお忙しく…」 「まだ1年も先じゃない。気が早すぎるわ。どうせドレスのことよ。オレンジの花をどこに飾るかで、職人ともめてたもの。だいたいこういう用事は大臣が行くんじゃないの」 「お忙しそうですし…」 「いいわよ、いいわよ。どうせ、私が抜け出さないようにって、お父様の差し金なのよ」 クリフトは、昔を思い出して笑ってしまった。そして一言。 「私がお相手では役不足ですか」 「……いじわるね」 「……ええ」 アリーナはそっぽを向いた。 「私は何も言わないわよ」 「はい」 ああ、憎たらしい。なんでこの蒼い瞳の青年は、平然としているのだろう。 クリフトは見ずに、アーモンドの花を見つめて、尋ねた。 「何の木かしら。昔冒険していた頃には、ここにこの木はなかったわね」 「アーモンドです。きっとこの辺りの農家の方が、たくさんお植えになったのでしょう。今が盛りで美しいですね」 「……何でも知ってるのね」 「いえ、そんな」 「人の気持ちもそんな風にわかるのね」 「姫様?」 「いじわるなのよ、クリフトは。そんな風にからかって。私を困らせて」 「すみません」 「許さないわ」 「え?」 「そんな風に、他の人の気持ちがわかって、誰かに気持ちを移したら、許さないわ」 「この花に誓って」 「え?」 「アーモンドの花に誓って、姫様だけを愛しますよ」 真っ赤になってしまったアリーナに負けず劣らず、クリフトも赤面している。 アーモンドのピンクの風が、二人の周りを舞う。 春風に、花びらがひらひらと二人の肩に落ちる。 サントハイムに戻って、アリーナはすぐ図書室に駆け込んだ。 重い辞書を開く。 a,a,almond…。 アーモンドの花がピンクに染まるように、アリーナの頬はピンクの色を増した。 アーモンドの花言葉は「真心の愛」だから。 エンドールでの用事は、結婚式の招待状を国王と、それから大事な仲間、トルネコに渡すこと。 二人の式は、来年の、アーモンドの花が咲く頃。 _______________________________________________________________________________________________ アーモンドの花は桜のようなのだそうです。 日本と違って外国では、チェリーブラッサムではなく、アーモンドブラッサムなのかもしれませんね。 |