ウエディングマーチ(カラー)




クリフトはパトリシアに水を飲ませるために湖に来ていた。
勇者たちは宿で休憩を取っていたので声かけもせず一人で来ていた。
湖の近くで、見たことのない花がたくさん咲いているのに気づき、その花を育てているらしい農夫に聞いてみた。


「こんにちは、珍しい花ですね」
「ん?特に珍しい花じゃないよ。見たことないのかね、カラーを」
「カラーという花なのですか。私はサントハイムから来たのですが、この花は初めて見ました」
「ああ、あっちではないかもなあ。綺麗な花だろ?どうだね、少し分けてあげるから、好きな子にでもあげなよ」
突然真っ赤になってしまうクリフト。
「い、いえいえ。せっかくお育てになった花ですから」
「まあ、そう言わんと。好きな子の一人や二人くらいいるだろうに。なかなか男前だもんな、あんた。ほれ」
農夫は一抱えのカラーをクリフトの手に持たせた。
「ありがとうございます、こんなにたくさん頂いて」
「いいってことよ」



宿に戻るといきなりマーニャに出会った。
「うわー!ウエディングマーチじゃん!どうしたの、そんなにたくさん!」
「この花のことですか?これはカラーという花だと教わったのですが。たくさん頂いたので、マーニャさん、少しどうぞ」
「カラーの別名がウエディングマーチって言うのよ。私はいいわ、そんな名前の付いている花よ、あげる人が違うんじゃないの?」
またクリフトは真っ赤になる。
「い、いえ。あの、これはみなさんにお分けしようと」
「いいから、いいから。せっかくその花を持ってるんだし、この際だからプロポーズしちゃいなさいよ!」
「ちょ、何おっしゃるんですか!」
「おっと、噂をすればなんとやら、お姫様がいらしたわよー、うまくやりなさいよ、クリフト!」
マーニャはウインクして去っていった。ところへアリーナがやってきた。



「わー、クリフト、珍しい花持ってるね!」
「ええ、私も初めて見ました、カラーという花なのだそうです。姫様に差し上げましょう」
「ほんと!じゃあ部屋に入ってて!花瓶借りてくるから」
アリーナはそう言うと駆け出した。


クリフトは部屋に入りさっきのマーニャとの会話を思い出していた。
プロポーズなんてそんな大それた……でも……そこまではいかなくとも、中途半端な今の状況を打破したいとは思っていた。
もしかしてチャンスなのかも……。


アリーナが花瓶を抱え戻ってきた。
「ね、この花瓶なら大丈夫よね?ちょっと背の高い花だもんね」
「姫様。あのですね……」
「ん?」
「この花には別名があって……ウエディングマーチって言うんだそうです」
「へえ!そういえば、花嫁さんのブーケにしてもよさそうね!」
「ええ……それでですね……姫様…あの、あのですね」
「さっきから何なの、言いたいことあればはっきり言いなさいよ」
「あ、は、はい!あの、私とその…一緒にこれから二人で音楽を奏でて頂けませんでしょうか!」
「えー!喜んで!楽しみだわ!」


クリフトは拍子抜けした。


「あ、あの?姫様?」
「ねえねえ、どうやるの?その花で音楽ができるんだよね?どうやって音を出すの?そのラッパみたいな花から音が出るのかな?」
「はい?」
「はい?じゃないわよ。今、一緒に音楽を奏でてくれって言ったじゃないの」
「え……」
「ウエディングマーチっていう花なんでしょ。音楽が奏でられるからそんな名前なのかな、素敵ね」
「は、はあ……」
「どうしたの?」
「あの、姫様、私はこの花での音楽の奏で方は知らないんです……」
「そうなの……じゃあ、さっきのは何だったの?」
「え?あ、あれはですね、その、あの、もしかしてこの花で音が出るかなーなんて」
「なーんだ。まあ音は出なくても、こんなに綺麗な花だもの、見て楽しみましょうね!


アリーナがクリフトからカラーを受け取ったとき、オレンジ色の髪に白い花が映えてたまらなく美しく見えた。
クリフトはちょっと微笑んだ。
あまり焦ることはないんだな、と。
このまま姫様が大人になるのを待ってみようと、カラーを見ながら思った。


「何がおかしいの」
「いえ、姫様。とてもいい花ですね」
「うん、こんなにたくさんありがとう。他の人にも見せてあげたいわね。でも……」
「でも?」
「クリフトが私のためだけにくれたってことにしときたいなあ」
「え?」
「だってクリフトから花もらいたいなーって思ってたんだもん」
「な、なぜです?」
「サランの教会で結婚式があるでしょ、花婿さんが花嫁さんにブーケをあげてるの見たりして、私もクリフトから欲しかったんだ」
「あの……」
「真似してみたかったのよ、花嫁さんの真似!」
「真似……ですか」
「あー、子供だなあって思ってるでしょ!私だってちゃーんとドレス着ればきっとそれなりになるわよ!」
「わかっております」
アリーナのウエディングドレス姿はもう何度も思い描いているクリフトだった。


「ほんとはね」
「……え?」
「ううん、なんでもない、そうだ、私の結婚式にはそのカラーをブーケにするわ」
「ええ」
「ほんとはね」
「どうなさいました」
「ほんとは真似じゃなくて、クリフトにね」


聞こえない。今の最後の台詞が聞こえない。
今、姫様はなんとおっしゃった?


「ま、いいわ。もう少し時間が必要よね!早く城のみんなを救い出さなくちゃ!カラーをどうもありがとう! って、クリフト……?」

クリフトは顔を赤くしてぼうっとしている。
「姫様、あの、私は少し具合が……」
「熱があるみたいね、顔が赤いわ。もう部屋に戻って休みなさいよ」
「そういたします……、あ、隣の部屋ですから大丈夫ですよ」


ふらふら出て行くクリフトを見ながらアリーナはため息をついた。

「はあ……いったいいつになったら、こっちの言ってる意味分かってくれるのかなあ」



花瓶のウエディングマーチは、どっちもどっちだ、と言いたげだった。



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カラーがウエディングマーチと言う別名を持つのを知ったのは
回覧板で届いた地区の広報紙だったのですが(笑)ほんとだろうか、ほんとだよね。








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