フリルペチュニア |
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「えーっ!いやだぁー、こんなヒラヒラした服!私、絶対着ない!」 薄紫のフリルだらけのドレスは、いとも簡単に、持ち主に嫌われてしまった。 持ち主になるはずの幼い少女は、このサントハイム国の王女。 そう、ドレスなんか着ていない、まるで王子のような格好。この女の子が王女なのだ。 部屋には困った顔の、仕立て屋と、女官たち。 そして一人の貴婦人。 「でもね、アリーナ。いつまでもそんな男の子みたいな格好はできないのですよ」 優しい声で諭す、少女の母親は、この国の女王でもある。 「お母様、私は、ドレスよりも、このお城の兵隊さんのお洋服がほしいのよ」 「……困った子ね」 そう言う女王の顔はさほど困ってはいないようだ。 「アリーナ。いつかきっとこんなドレスが着たいと思う日が来ますよ」 アリーナと呼ばれたその少女は、小首をかしげて、母親を見る。 「お母様。私は、大きくなってお母様みたいになっても、絶対ドレスは着ないの」 「どうしてなの?」 「私はね、大きくなったら旅に出るの!一人旅よ、クマなんか私のキックでひとひねりよ!」 「あらあら。アリーナは本当におてんばさんね。それではこのドレスは、しまっておきましょうか。でも決められた日には着なくてはいけませんよ」 「はーい。そのときは着まーす!」 アリーナは、そう言って部屋を飛び出した。 ああ、どうして、そんなことを思い出したのだろう。 あんなにも着たくないと言い張ったドレス。 着たいと思う日が来るなんて。 フリルだらけのドレスが、可愛いと思う日が来るなんて。 鏡の前の私は昨日と違う、ドレス姿。 薄紫のドレスは、今は純白のドレス。 ドレスは何重にもフリルが飾られて。 それは城に咲き誇っていたフリルペチュニアによく似ている。 「お綺麗ですよ、アリーナ様」 「国王陛下もお慶びでしょう」 「きっと姫様のお相手のあの方が一番お慶びですわ」 女官たちが口々にアリーナを褒め称える。 お母様、私、綺麗かな? アリーナはくすっと笑って、フリルのドレスを翻した。 あの人が。 あの人が待っている。 小さいころから私を支えてくれた人。 お母様亡き後、あの人が私のお母様代わりだった。 男の人なのに。 その人は、ドレス姿の私を見て――。 「あ…………」 「似合わないかな…?」 「そんな、そんなことあるわけないじゃないですか。姫様、とても…とても…」 もう泣きそうな顔をしている。 ほんとに純粋な人。 ほんとに大好きな人。 「とても?」 「とてもお綺麗です…姫様……」 「今日から姫様はよしなさい、クリフト」 お母様。私は、わかったの。 フリルのドレスを着たい日が、今日だったの。 一番綺麗な私を、クリフトに見せたい日だったの。 空が綺麗。 花が綺麗。 教会も神父様も綺麗。 お父様もブライも大臣も綺麗。 そして―――。 クリフトもとっても綺麗。 こんなに綺麗な日が来るなんて、私は知らなかった。 フリルペチュニアは、あの日の私を覚えているのかしら。 今日の私は。 そうよ、きっとフリルペチュニア―――。 _______________________________________________________________________________________________ この花に寄せて――――。 みちりん様のサイトのトップに飾ってあった花の写真。 すぐさま気に入り、すぐさま図々しくも強奪要望。 花の写真を見て、すぐこの話ができたくらいお気に入りだったんです。 この花の名前は、ドレスアップペチュニア。 でも、どうしてもフリルペチュニア、と言う名前で書きたくて。 みちりん様にも花にも、失礼な私。 みちりん様、かわいい花の写真、本当にありがとうございました! コーヒー片手に素敵な写真を。この写真の撮影者でいらっしゃいます。 みちりん様のサイト「みちりんの部屋」 でごゆっくりお過ごしください。 |