野いちご |
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「あ、野いちごですよ、姫様」 サランまでの道中、クリフトが道端を指差した。 もう既に山道に差し掛かって、小休憩したいところだったのだ。 「ほほう。もうそんな時季じゃな、懐かしいのう。子どもの頃はよく食べたものじゃ」 ブライが昔を思い出して言った。 「ええ?これいちごなの?なんだか、いつも食べるいちごと違うわね」 「姫様、元々はこれがいちごの原型なのです。お召し上がりになりますか?」 そう言って、クリフトは真っ赤な野いちごを一粒摘んだ。 こんこんと湧き出ている岩清水で、その野いちごを洗う。 「いただきまーす!」 甘い。普通のいちごより、粒々の感触がずっと大きく、食べたという感じになる。 「すごくおいしい!もう少し食べよう!」 「あんまり召し上がるとお腹壊しますよ」 「え?そうなの?」 「いやいや、姫はなんでも、際限なく召し上がるのでクリフトが心配しておるのじゃろう」 ブライがよけいな言葉を継ぎ足す。 「うるさいわね、こんなおいしいいちご食べたことないんだもん、もっと食べるわよ」 「いちごの中身を、よく開けて確かめてくださいね。虫が入っていることあるんですよ、ほら」 そう言ってクリフトは野いちごを開けて見せた。 「あ!ほんとうだ!虫もこれ食べるの?じゃあ、もう食べないわ」 「姫様、虫が入ってなければよろしいのですよ」 「ううん、そうじゃないの。せっかくの虫のご馳走だもの、私が【際限なく】食べてしまってはかわいそうよ」 ブライへの軽い皮肉を混ぜて、アリーナはいたずらっぽく笑った。 「あてつけですかな、姫もおっしゃいますなあ」 ブライはからからと笑う。 少し疲労を感じていた一行には、ほっと息をつける素敵な小休止になった。 クリフトは、自分も野いちごを食べた。 恥ずかしくて、アリーナの目の前では言えない一言を胸にためて。 こういう姫様のさりげない優しさに気づいているのは、私だけでありますように。 姫様は、動物にも植物にも、この世のすべてのものに対してお優しいのですね。 尊敬しています。愛しています。 この野いちごのような、かわいらしい私のお姫様。 大切な私のお姫様。 あなたが好きです。 _______________________________________________________________________________________________ 苺を、いちごと書くか、イチゴと書くか、苺と書くか悩んだ。 「野いちご」としたので「いちご」のほうがいいと思いひらがなで統一。 いちごって、漢字でもひらがなでもカタカナでも可愛い単語ですよね。 クリフトの独白は書いていて背中が痒くなった(じゃあ書くなよ)。 「尊重と愛情」がいちごの花言葉。野いちごは何だろうか? |