ジャパニーズアプリコット




梅のおとぎ話。



「いい香り、こんな花の香り知らないわ」
「ジャパニーズアプリコットですね、プラムみたいな感じでしょうか、実がつくんです。でもなぜ、ここにあるのでしょう?どこからか飛んできたのでしょうか?」
「え?ジャ、ジャパニーズ?飛んできた?」

クリフトはくすっと笑った。
「今から話すのはおとぎ話ですよ、架空の、そうですね…どこか、とても遠く…東洋に小さな国がありました」
「東洋???それって、どこらへんなの?ガーデンブルグよりまだ遠い?」
「ええ」
「天空城とか?」
「まだ遠く」
「まさか、デスピサロのいたあの地下帝国くらい?」
「まだ遠いです、でも姫様、これはおとぎ話ですから。架空のお話です」
「うーん、まあいいわ、どんな話?」


「その小さな国に、とても勉強のできる人がいました。その人はこの花が大好きだったのです」
「勉強のできる人…はあ、なんだか先を聞くのがいやになりそう」
「ある日、その人は仕事を突然追われてしまいました」
「うん」
「この花はとても悲しみました」
「ええ!花なのに?」
「おとぎ話ですから」
「うん…」
「この花は、その人を追って、その人のところまで追いかけていったのです」
「花が!?」
「ええ」
「それはすごい話ね。ああ、だからおとぎ話なのね。クリフトが今作った話なの?」
「そうです」
「なあんだ。そもそも、その東洋の小さな国っていうのがわからないし、花がその人を追いかけていくというのもありえないものね」
「でも、こんな話がこの花にはあるような気がするんですよ」
「どうして?」
「どうしてなのでしょう、この木に惹かれてならないのです。この花と香りに」
「やさしい香りだものね。気品ある香りだわ。私の持つどの香水よりも素敵な香りだと思うわ」
「ええ。なぜここにあるのでしょうね、不思議です。追いかけてきたのでしょうか?」
「誰を?」
「姫様を」
「この木が?それはないわよ、そうだ、勉強のできる人の話なら、クリフトよ、追いかけてくるのは」
「おとぎ話ですから」
「なんか、でも、本当の話みたいだわ。勉強のできるクリフトをこの花…じゃなくて、私が追いかけるわ」
「え?」


「あなたの行くところを追って、この私が。知っているのよ。なんでも、ゴットサイドに行くんですって」
「ご存知だったのですか」
「私は寂しくなんかないわ。この花になってあなたを追いかけるの」
「……なぜです…」


「私がこの花だから。この木は、この花は、その勉強のできる人がいなくなったら、辛かったのでしょう?私もそうだもの。勉強のできる誰かさんが私の前から消えてしまったら、悲しくてたまらないもの。だからこの花になって、追いかける」


「それはおとぎ話ですから」
「おとぎ話を本当の話に変えるの。私が、このジャパニーズアプリコットになるの。そうね、私の名前は今日から、アリーナをやめてアプリコットにしよう。アプリコットはアプリコットジャムになるために、実をつけに行きましたとさ、ちゃんちゃん♪」


そんなことを言われたら、私はどういう顔をすればいいのですか。
あなたに黙って、消えてしまうはずだったのに。



「私に黙ってどこかに行ってしまうなんて、それはこの私が許さない。お父様にはもう言っちゃったわ」
「な、何をです」
「私、ゴットサイドで、学問の道を究めたいって。お父様、ぜひとも行って来い、ですって」
「姫様、それは…」
「知ってるわよ。お父様がわざとそう言ったことくらい、はい、これ、お父様からの手紙」



クリフト。
どうやら、わが馬鹿娘は、そなたについていきたいそうなので、せいぜい勉強の面倒を見てやってくれ。
決して、武術の練習なぞさせてはならぬぞ。
あくまで勉強をさせる、という身で送り出すのだからな。



クリフトは国王の心遣いに限りなく感謝した。

そして姫様にも。
まさか、私を?
この私でよろしいのですか?



私の姫様。



「馬鹿ね。こういうのは男からちゃんと言うものよ。私に言わせるなんて、クリフト、最低だわ」
「すみません」

泣き出したクリフトにアリーナは仰天してしまう。
「ちょ、ちょっと、叱ったんじゃないわよ、泣かないでよ!ちょっと!」
「すみません、ほんと、私……」

クリフトはアリーナを抱きしめた。
「ちょ、な、な、何するのよ!人が来るわよ、ちょっと」
「離しませんよ、ついてきていただきますよ」
「……そうよ、言えたじゃないの」
「はい…」
「花言葉を聞かせて」
「高潔、澄んだ心、忍耐とか…そんな言葉ですね」


抱きしめられながら、アリーナは思う。
ああ、これはあなたの花、クリフト。


キスは梅の香りの中のおとぎ話の続き。





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梅、と書くとDQ世界に似つかわしくないのに、プラム(プラムってすももなんだが)とか
ジャパニーズアプリコットとかだとおしゃれになる。

だけど「東風吹かば匂いおこせよ 梅の花 主なしとも 春なわすれそ」は
プラムなんて気取ってはいけませんね。

太宰府天満宮。梅の香が春を連れてくる福岡の神社。
ちなみに梅が枝餅はさめるとおいしくないのであったかいうちに食べよう。








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