しあわせのカタチ



あなたのくちびるがあたしの名前のカタチに動くのを

見ているだけで、あたしはこんなに幸せな気持ちになれる。


4月のサントハイムは、まるでおひさまがほころぶようなポカポカ陽気。

いつもお勉強に使うこのお部屋は、城中で一番大きなテラスに面していて、

あたたかな日ざしと、海の方から吹いてくるそよ風があたしのおでこをくすぐる。

こんな日におとなしく勉強してろってのが、無理な話だ。

いつものたいくつな先生だったら、すぐに逃げ出す事もできるんだけど。

何てたって今日の先生はクリフト。

あたしを追い掛けることに関しては本当にエキスパート。

地の果てまでも追いかけてきそうなそのパワーには、脱帽もの。

逃げられるわけがない。


「姫さま」

あまりにたいくつ過ぎて足をブラブラさせているあたしに気付くと、

向かい合わせに座ったクリフトは、小さく微笑んだ。

「手が止まっておりますよ。どこかわからないところでもあるのですか?」

わからないこと。

わからないことならいっぱいある。

だけど一番わからないのは、なんでこんな日にお勉強なんかしなきゃいけないのってこと。

「勉強、もうやだ」

無駄だと思うけど、一応言ってみる。

「やだと言われましても…私はこれがお役目なのでどうしようもないことです」

やっぱりダメか。

こういうところ、クリフトって融通が効かないんだよなぁ。

今すぐ遊びに行きたいと思ってるあたしの気持ちなんか、わかってるはずなのに知らんぷり。

「お外、いい天気だよ。遊びに、行きたくない?」

「行きたくありません」

ピシャリとあたしの言葉をはねつける。

「それより早くこの問題を問いていただきたいのですが。さっきから同じ問題ばかりやってるような気がするのは、気のせいですか」

ほら、もう。口を開けばお説教ばかり。

違うのよ、クリフト。

あたしがあなたの口から聞きたいのはそんな言葉じゃないのに。

「ねえ」

「何ですか」

「アリーナって呼んでみて」

「呼びません」

「アリーナって呼んでくれたら、やる〜〜」

「ダメです」

「じゃあ、お散歩。少しだけ行かせてくれたらやるから」

「それもダメです」

「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「それでは」

バン!と、クリフトは机の上にあったやりかけの問題用紙を叩き付けた。

「お勉強が終わったら、考えましょうか」

そしてニコリと極上の笑みを浮かべる。

ああ、もうどうしてこの人は、そんな風にあたしを動揺させることサラリと言えちゃうんだろうか。

体の中が暖かくなって、くすぐったくなって、何だかじっとしていられない。

「わかった。………がんばる」

しぶしぶながらももう一度真剣にその問題用紙に取り組み始めるあたし。

しばらくその様子をじっと見ていたクリフトが、コホンと咳払いをして言った。

「はい、そのお言葉通りキチンと頑張ってくださいね。アリーナ、………………様」

その言葉にあたしは、思わずペンを投げ出して、目の前に座ったクリフトの肩を揺さぶる。

「ねねね、今、何ていったの!?」

「いえ何も」

「アリーナ『様』って言ったよね!『様』って!だから『様』はいらないんだってば!」

「私は何も言ってませんよ!ほら、もう早くお勉強に集中してください」

そう言ってくるりとあたしに背中を向けたクリフトの耳は、真っ赤だ。

クリフトも今、あたしと同じにくすぐったいんだろうか。

まあ、今日のところはこれくらいで許しといてやるか。





とても甘くて可愛い二人…。
こっちまで幸せになっちゃいます。
読んでるこちらが、若干気恥ずかしくなりそうなくらい
あま〜いクリアリを堪能しました。

素敵な小説をいただき、本当にありがとうございました。

もっともっと甘いクリアリに浸りたい方は作者のyukky様のサイト「A-Love!!」へgo!









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