![]() ![]() ![]() ![]() 「ほっといて」 おかあさまが亡くなって、わたし、泣いて泣いて。 国中でおそうしきやって、毎日毎日、知らないおじさまおばさまや、サランの町の人が城にやってきて。 わたしは、もううんざりなの。 おかあさまいなくなってすごくさびしい。そっとしておいてほしい。 どうして毎日、人がたくさん来るんだろう。 ![]() ![]() ![]() ![]() そして、このごろ教会でよく見かける、その男の子が声をかけてきた。 「姫様、さびしくはありませんか。ぼくでよかったらいつでもお話に来ますよ」 そんな風に声をかけてきた、わたしより少し年上の男の子。 そのとき出た言葉が。 「ほっといて」 そう言ったときの、その男の子の悲しそうな顔が忘れられない。 「ごめんなさい」 男の子はさびしそうに教会に入っていった。 ごめんなさいって言いたいのはわたしの方。 あなたはだれ? ![]() ![]() ![]() ![]() ようやく人が来なくなる日が、多くなって。 わたしも、おかあさまのこと、おちついて思い出せるようになったとき。 教会に行ったら、神父様とあの男の子がいた。 「姫様。ようやく教会に来ましたね」 神父様はやさしくおっしゃった。 あの男の子も、やさしい目でわたしをみている。 「紹介が遅れましたね、この子はクリフト。いずれ、この城で神官として姫様にお仕えすることになるでしょう」 「しんかんとしてつかえる???」 「今は、難しくておわかりにならないでしょうが、とにかく姫様のいい話し相手になる少年だと思います。姫様とあまり歳も変わりません。さあ、クリフト、自己紹介なさい」 「こんにちは。クリフトと言います。神父様のもとでこの城にお仕えすることになりました。…こないだは、ごめんなさい」 「…わたしの方こそ、ごめんね」 「いえ、あのときは、ぼくが出すぎたことを言ってしまって」 「ねえ、クリフト」 「はい」 「クリフトってわたしとあまり歳が変わらないんでしょ?何でそんなにていねいにしゃべるの?今日から友達だよね?わたしはアリーナ。なかよくしようね」 神父様がおっしゃった。 「姫様。クリフトはそんなになかよく、というわけにはいかないのですよ」 「どうして?」 「それは……」 「へんなの。今までこの城に子供っていなかったから、わたしクリフトとなかよくしたいわ。ね、中庭で遊ぼう!」 わたしはクリフトの手を引っ張った。 「ちょ、ちょっと」 わたしに引きずられていくクリフトの腕は細くて白くて。 少し弱いなあ、と思った。 これからわたしの遊び相手になるには、力弱すぎだよ、きたえてやろうっと。 「姫様、少し元気になられましたか?」 「うん。おかあさまはわたしの中にいつも生きているもの、そう思えるようになったの」 「そうですか」 「ほんとにこないだはごめんね」 「気にしていませんよ。姫様が元気になられてよかったです、あ!」 クリフトは、小石につまずいて倒れてしまった。 少しにぶくない? 顔を上げたクリフト、照れてるの?小さな笑顔。 夕焼けの中、青い目と青い髪が、きらきらしてて、きれい。 「ほっといて」 って言ったのはわたしだけど。 なんだかこの男の子、ほっとけないな。 ひ弱だもん。 だけど。 おかあさまとおなじやさしい笑顔なの。 ほっといてほしくないよ、クリフト。 ![]() ![]() ![]() ![]() |