おてんば姫の主張 |
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フレノールの町。 アリーナたちの活躍で、ニセ姫事件も解決し、元の穏やかな町に戻っていた。 その日は疲れもあったので、一行はフレノールに泊まることにした。 「明日こそサントハイムに戻りますぞ」 「ええーっ、何言ってるの、ブライ!明日は砂漠のバザーに行くのよ!その次はエンドールよ!」 「クリフト。おぬしからも言ってくれ。姫様を城に戻さねばならぬ」 クリフトは何も言えなかった。どちらかと言えば、このまま旅を続けたいと思っていた。 王宮で見るアリーナよりも、今こうして旅に出ているアリーナが何倍も生き生きしている。 クリフトはその姿を見ていたかった。 「ブライ様。せっかくですからエンドールの町まで見ることにいたしませんか?」 「何を言っておる。もうさんざん冒険はいたした。これ以上姫様のわがままには付き合えぬぞ!」 「でも、ブライ。私が城の外に出なかったら、テンペの事件もフレノールの事件も、知ることはなかったのよ」 「!」 あまりにもっともなアリーナの意見に、ブライは言葉を返すことができなかった。 「私は何も知らな過ぎたわ」 「姫様…?」 「ブライは知っていた?テンペが魔物に襲われていたこと?」 「恥ずかしいことではございますが、わしは知りませんでしたな」 「クリフトは?」 「私も全く存じませんでした。村の人たちがどんなに辛い思いでいらしたのか、それを考えると胸が痛みます」 「そうでしょう?私も知らなかった。ううん、お父様だってご存じなかったと思うわ。でもテンペはサントハイム領なのよ。サントハイム王女が何も知らないなんて許されることではないわ」 「!」 ブライとクリフトはアリーナを見つめた。 「私と同じくらいの年の娘さんたちが何人犠牲になったのかしら…。私は全然それを知らなくて、王宮でのうのうと暮らしていたのよ」 「姫様」 「私は、毎日ブライに注意され、クリフトを困らせてた。お父様にもいつも反発してた。こんな王宮の生活から、早く抜け出したいと思っていたわ。…でも、テンペの人たちは私の悩みなんかとは比べ物にならない悩みを抱えていらしたのよ。知らなかったとはいえ、王室の一員として恥ずべきことだと思うの…テンペの人たちに申し訳ないわ」 アリーナがこんなにも領内の民衆を案じていることを、ブライは初めて知った。 クリフトはアリーナの本当の気持ちを知らなかったことを心から恥じた。 「だから旅を続けたいの。もしかしたらサントハイムのどこかで、困っている人がまだいるかもしれないわ。ううん、困っている人はサントハイム領の人々だけじゃなくて、世界中にいるかもしれないわ。私たちで助けてあげたいでしょ?」 「姫様。すばらしいお考えですぞ。ブライは感服いたしました。武術大会があるからエンドールに行こうとなさっておられるわけではなかったのですな」 「このクリフト、ますます姫様のことを…いや、ますます姫様を尊敬いたしました!」 「うふふ。なーんてね!」 「姫様?」 「こうでも言わないと、ブライは旅を続けることに賛成してくれないでしょ?」 「姫様、わしをだましたのですかな!」 「バザーが楽しみね、ブライ!明日は早起きするから、私もう寝るわね!おやすみなさーい!」 アリーナは部屋に戻ってしまった。 「やれやれ……わしはさっきは、さすが姫様じゃと思ったのにのう……」 「ブライ様。先ほどの姫様のお話は本当のことだと思いますよ」 「うむ。そうかも知れんの。いやきっとほんとのことじゃろうの」 「はい。姫様は本心からおっしゃったのですよ。でもお恥ずかしかったのでしょう」 「姫様はこの旅で成長なされたの」 「はい」 「陛下もきっとお喜びになるじゃろう。旅はもう少し続けるかの…おぬしもうれしかろう、クリフト?」 「え…えっ?その、ブライ様、ど、どういう意味でしょうか?」 「ふっふっふっ。あの噴水の前でおぬしが申したこと、わしは、はっきり聞いておったぞ」 「…………」 「『あの噴水のあたりを姫様と二人で散歩したい』とか、聞こえたのう」 「……お年の割には、お耳がよろしいのですね、ブライ様」 言うが早いがクリフトはさっと席を立った。 「クリフトーッ!!」 ブライの怒鳴り声が、宿屋に響き渡った。 |