降りしきる雪とぬくもりと



「はー、見張りって退屈!モンスターが出てくるなら退屈しのぎにもなるのに!」
「姫様、馬車の中では皆さんお休みですから、少しお静かに…」
「あ、そうだったね、ごめんね。それにしても寒いね…」
「ああ、そういえば焚き火が小さくなりましたね、待ってくださいね、少し薪を足しますので」


しんしんと雪は降り、焚き火の炎は雪に負けそうで、わずか燈っているだけ。
アリーナもクリフトも、自然、会話が少なくなる。



「寒いわ」
「……姫様?」
「こんなに炎が小さくなって」
「今、薪を足したばかりですから、火が上がるまで少しかかります」
「私たちみたいよ」
「?」

「ソロたちに会えたときね、ああ、これでサントハイムは救われる、そう思ったの。すぐにお父様や大臣やみんなを救えるって」
「…………」
「でもそうじゃなかった。サントハイムは元に戻らないし、マーニャたちだって仇を討ってもお父様は戻ってこないし、ソロだってシンシアさんはもう――」
「…………」
「どんなに戦っても。どんなに戦いに勝利しても。相手がそれ以上に強ければ、私たちの力では抑えきれないのよ。雪に負けそうなこの炎と一緒よ」
「……姫様、少しお休みください、疲れてらっしゃるのですよ」
「そんなことないわよ、話をそらさないで」


薪に火がつき、少し炎が強くなる。


「姫様、ご覧になりましたか?どんなに小さな炎でも、薪がある限り消えはしないのです。私たちも同じです」
「…………」
「みなで支えあっていけば、雪になんか負けません。悪の力にも負けません。どんな小さな炎でもです」
「……うん…。でもあんまり、今はそう思えないの」
「それが疲れているんです」



クリフトは、やおら立ち上がると、アリーナを毛布でくるんだ。


「ちょ、ちょっと」
「あたたかくして、少しお休みになれば、気持ちも変わりますよ」

毛布の上から、ぎゅっと抱きしめられて、くるしい。
でも――――。



あたたかい。


あたたかい。 この人はいつもいつでもあたたかい。
こんなに寒い中。
こんなに雪の降る中。
ここだけは、今だけは、とても。

寂しくて悲しくて。
そんなときでも、この人がそばにいれば、頑張れるの。

あたたかい人だから。 力強い人だから。

ごめんね。
今日は少し弱虫だったの。

いつもそばにあるあたたかさを忘れそうになっていたの。


あたたかい……。



すうすうと寝息が聞こえてきて。
クリフトはゆっくり身体を離すと、突然聞こえる騒ぎ声。


「ヒューヒュー!やるわねえ、クリフト」
「姉さん!」
「押しが足りないよなあ、そこでもう一押しだよ」
「ソロ殿!な、なんということを!」
「やだなあ、ブライさん、起きて来なくてもいいのに、せっかくいいとこだったのに」
「い、いいとこですと!!」



クリフトは炎に負けないくらい赤面しながらも、やっとのことで声を絞り出す。
「ブライ様、あまりお怒りになると血圧が」
「う、う、う、うるさーい!誰のせいだと思っておる!王がお帰りの際は、事細かに今夜のことを報告せねば!」
「ブライ様!別に私は、やましいことなど」
「ええい!うるさい!!そもそも姫をお守りするはずのお前が――(以下長い説教)」




騒ぎをよそに、お姫様は、あたたかな誰かの夢を見る。







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