![]() ![]() ![]() ![]() 未来へ繋がる。そう、トランジット。 「ああ、もうどれも合わない!」 「姫様、何も今すぐお決めにならなくとも」 「だって、今日中に合わせてしまわないと明日は明日で忙しいのよ」 「まだ今日は時間はたくさんありますよ」 結婚式前はただただ慌しい。一般人でさえそうなのだから王族の婚礼ともなると、式にこぎつけるまで、とんでもない準備期間がある。 今日は、式で履くアリーナのパンプスを決める日なのだが、仮のサイズのパンプスがどうしてもフィットしないのである。 「第一、なんでクリフトがここにいるのよ。私の靴合わせ、見たって仕方ないじゃない!」 アリーナはキレ気味に話す。 「はあ、私もそう思うのですが、陛下に姫様に付き合うように頼まれまして…」 女官長が助け舟を出す。 「姫様、陛下は少しでも姫様が穏やかな気持ちでいられるようにと、クリフト様をおよこしになっておられるのですよ」 「合わないわ、どの靴も。職人さん、悪いけど午後からもう一度サイズ合わせに来てもらえないかしら」 アリーナは少し苦虫を噛み潰したような顔で言った。 「かしこまりました。もう少しサイズをそろえて参りますので、また午後から合わせてみましょう」 ![]() ![]() ![]() ![]() 「はー、痛かった。いくつになってもパンプス履くのはいやだわ」 「お疲れ様です」 「クリフトには分からないわよ!男の人って大して準備とか必要ないもんね!」 アリーナはいつになくとげとげしい。 クリフトはジャスミンティーを入れている。 「まあ、お茶でもいかがですか」 「……ありがとう」 次の台詞を言うまで少し時間を置いた。 「…ご心配ですか?結婚に不安でいらっしゃいますか?」 「……え…?え。違うわよ、そんな、不安とか…」 アリーナは慌てて否定する。 クリフトは柔らかく微笑んだ。 「姫様。不安な気持ちは私も一緒なんですよ」 「……クリフトが不安…?」 「ええ、今でも。私などが姫様の結婚相手としてふさわしいか、今でも」 「それは限りなく話してきたことじゃないの。何年も何年も。お父様とも。ブライとも。大臣とも。女官長とも。今更何を言っているの。クリフト以外の人なんて……」 「はじめてのことですから。お互い不安な気持ちがするのは仕方ありません」 「!」 「だから、私たちはできればずっと笑顔でいられるようにしましょう。皆さんにご心配おかけしないように。私がいつでもおそばにおります」 「…………」 「初めてどこかに行くときは心配ばかりだけど、次からはなんでもなくなる。初めてモンスターを倒した日はドキドキしたけど、すぐ慣れたでしょう?大丈夫です、及ばずながら私がおそばにおります」 「うん……」 「うまく乗り換えられますよ。新地点への乗り継ぎなんです、今の私たち」 「乗り継ぎ?」 「ここから、もっといい未来への乗り継ぎ地点。それが今なんです。不安な気持ちは今だけです」 「そうね、うん、私、心配でイライラしてたの。クリフトはえらいね、不安でもイライラしないのね」 「無頓着なんです」 「違うわよ。落ち着いてるのよ」 限りなく幸せになるために、今は乗り継いで乗り越えて、そんな中途半端な場所。 未来へ繋がる、小さなトランジット。 ![]() ![]() ![]() ![]() |