はじまり



「こんにちは。武器を見せてください」
微笑みを浮かべ、髪をカールさせたメガネの男が店に入ってきたとき、この店の主人ジャンクはちょっと不機嫌になった。
「武器屋に来て武器を見ないんじゃ何を見るんだ」
「そうですね。これは失礼しました」
そのメガネの男は、笑いながら答えた。ふと店の隅にいる少年に気がつく。
黄色いバンダナを髪に巻き、退屈そうにあくびをしていた。

「君はここの子ですか?」
「…そうだけど…?」
「君に見に来てほしいですね、私、しばらくこの村に滞在するんですよ。宿屋の隣に空き地があるでしょう。あそこで毎日魔法教室なんかやってみようと思ってるんです。どうでしょう、散歩がてら見に来ませんか?」
少年の返事の前にジャンクが答えた。
「魔法だぁ?十数年前だったか勇者とやらのおかげで、魔王がいなくなってからというもの、この世は平和なもんよ。武器屋も、とんと暇になっちまった。こんな御時世に魔法なんか習ってどうする。第一こいつには用はねぇことだ。こんなガキだが、オレには大事な一人息子さ。こいつがオレの跡取りになることはもう決まってんだ。よけいな知恵なんかつけないでもらいたいな」
「そうでしたか。また失礼なことを言ってしまいましたね。まあ、そうかもしれませんが、遊びだと思ってその子をぜひよこしてくださいよ。なんならごいっしょに。ああ、これにしますよ」
そう言ってその男は安い剣を手にした。

「あんた、何者なんだ。こんな小さな村、教室なんて開いたって誰も来やしねえぜ。ガキもこいつのほかは少ししかいない。変わったやつだな」
「これは申しおくれました。私、アバン・デ・ジニュアール・3世と申す者です。こう見えましても、勇者の家庭教師業を営んでおります」
「はあ?」
「有望な若い少年、少女を育て上げ、一流の戦士にすることが私の仕事でして」
(世の中が平和だと、こんなおかしなやつも出てくるんだろうなあ…。)とジャンクは思いながら「100ゴールドだ」と、アバンに言った。
「ああ、安い割にいい剣ですね。それでは、そこの君、ぜひ来てくださいね」
少年は「ヒマだから行ってやらあ」と答えた。






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