翌日。
宿屋の隣の空き地は、この村の半数くらいは来ているだろう、というくらいの賑わいだった。
何しろ珍しい物はなにひとつない小さな村だから、勇者育成業などと称する変な男が魔法を教えるそうだ、というので物珍しさが人を呼んだ。
「これはこれは、たくさんの方にお越しいただいて…。しかし私が育てようとしているのは、若い少年、少女でして…。中にはそうでない方も見受けられますが」
どっと笑いが起こる。その中に武器屋の息子とその友人がいた。
「ほんとに魔法なんかやるのかな」
「やるんじゃねえか、昨日うちの店に来て、なんかしきりに来い来いって言ってたぜ」
「へえ、そうか。おれん家にも来たけど、魔法教室の紹介しかして行かなかったな」
「へへっ、おまえならそうだろうさ。あの人はさ、きっとこのポップ様に、何かしら感じるものがあったんだぜ、目が高いね」
「ばかばかしい。あんな男の言うことなんか真に受けてるおまえはおめでたいぜ、ポップ」

アバンがしゃべり始めた。
「えー、では、魔法といっても、いろいろありますが、そうですね、そこの君」
いきなり指差されてポップはあせる。
「ちょうどいいくらいの少年です、君は確か昨日お邪魔した武器屋さんの、一人息子さんでしたね。ちょっとこちらへお願いしますね」
ポップは、なんだかわからぬままアバンのそばに行った。
「君、名前は?」
「ポップ…」
「そう、明るくていい名前ですね。では私がこのポップ君に、今から簡単な魔法を教えます。それが、もし彼にできたら、そのときは、皆さんの子供さんをぜひ教室によこしてくださいね」

村の大人たちはちょっと下を向いた。なんだかうさんくさそうで、子供をよこす気にならなかったのを、気づかれていたんだ、と思った。
しかし、目の前にいる男は、明るくていい青年である。子供をよこさなかった親は少し後悔した。
もし来させていれば、ポップのように魔法を教えてもらえるチャンスだったのだ。

「魔法を使えるようになるには魔法との契約がいります。ここの村の皆さんも魔法を使える方はご存知でしょう。今彼に契約を結ばせますからね」
「ちょ、ちょっと。おれ魔法なんてできねえよ」
「大丈夫ですよ、君はきっと魔法の才能がある子です」
「何であんたにそんなことがわかるんだよ」
アバンは静かに微笑むと、魔法の契約を始めようとした。するとその時宿屋の主人が駆け込んできた。


「た、た、大変だー!」
皆、何事かと思っていると、主人は息せき切って話す。
「や、宿屋に強盗が…!客を人質にして、金をよこせと…!」
アバンは「皆さん、せっかくお集まりいただきましたが、今日は中止です! 御主人!私が行きましょう!」と言った。
「え…?あんた強盗を追っ払ってくれるのか?」
「まあ、追っ払えるかどうか…とにかく話してみましょう」
隣が宿屋だから、行くのは簡単だ。アバン以外の人間もやじ馬としてアバンに続く。






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