「強盗さん!人質を放しなさい!」
いきなりアバンが切り出した。宿屋の主人は気がかりだ。
「あんまり興奮させないで下さいよ。お客さんにもしものことがあったら…」
扉を少し開きながら強盗の一人が答える。
「金はどうした?ここの村全員の家から金を持ってこいと言ったはずだぞ」
「人質を放さなければお金はやれませんね。お金はここです!さあ、誰かこちらまで来なさい!必ず人質もいっしょですよ!」
宿屋の主人はあわてて言った。
「ちょっと!お金なんてありませんよ、もしばれたら!」
アバンは「しぃーっ。大丈夫ですよ」と言いながらウインクした。
すぐに強盗の手下らしい一人が人質とともに、姿をあらわした。
「さあ、金と引き換え…」
言い終わらないうちだった。
アバンは呪文を唱えた。
「ラリホー!」
強盗はあっけなく眠ってしまい、人質の客は解放された。
ポップとその友人は、初めて見るラリホー(催眠呪文)に、驚きを隠せなかった。
「おい、すごいな、あの人が『ラリホー』って言ったら、寝ちゃったよ」
「……。ああ、すげえな……」
ポップは心からすごいと思ってしまい、言葉が出ない。


強盗のボスはいつまでたっても金を持ってこない手下にいらだち始めた。
「おい!どうした!さっさと金をもらってこねえか!」
「残念ですねえ。あなたの部下はここでぐっすりお休みですよ」
アバンがカラカラと笑う。
「なんだと!」
ドアを開けて、ボスが出てきた。
手下を一瞥して言った。
「けっ、だらしねえ野郎だ。おおかた『ラリホー』でもくらったんだろう」
「おや!あなたは魔法にお詳しいようですね。その通りですよ。私が呪文をかけさせてもらいました」
「……。金はどうした」
「お金なんて最初からありませんよ」
「そんなこったろうと思ったぜ。どうなるかわかってるんだろうなあ」
「おやおや、そんなことを言っていいんですか〜?早くこの村を出て行ったほうが身のためかと」
「金さえもらえばすぐにでも出て行ってやるぜ。だが金はないときた。こうなりゃお前さんから腕ずくでも、金をもらわねえと出て行けないなあ」
「そうですか、それなら仕方ありませんねえ」
「言っとくが、お若いの。俺には『ラリホー』なんて子供だましは効かねえぜ」
「これはわざわざ、ありがとうございます。効かない呪文を知っておくのは冒険の基礎知識ですよね」
「何を言ってやがるんだか!行くぜ!」
強盗はアバンに向かってきた。
確かにその男の動きはすばやく、また力強かった。アバンのメガネが男のナイフではじかれた。危うく顔を切られるところだった。
「これは驚きました!まだこんな強い人がいたんですねえ。あなたなら私のパーティに入れてもよかったくらいですよ!」
「さっきから何、訳のわからねえことをほざいてやがる!」






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