やじ馬のみんなは、二人の攻防を注目して見ていた。
人質が助かったとはいうものの、まだ安心というわけにはいかない。
しかし、ポップはさっきからアバンの動きだけをじっと見ていた。
(あの人はあんなふうに言ってるけれど、さっきから剣に手をかけることすらしねえ。余裕があるのか、それとも剣をまったく使えねえのか…)
アバンはあざやかにナイフをかわしていく。
「どうした?その剣はただの飾りか?使えるんなら使ってみなよ!」
アバンに強盗がそう叫んだ時だった。
剣をさやから出さずに「大地斬!」とアバンが言って強盗に切りかかった。
あっという間にそこに強盗はのびてしまった。
「だから言ったんですよ。おとなしくしていれば痛い目に会わずにすんだのに…。御主人、部屋をめちゃくちゃにしてしまいました、私の宿代に足しといてくださいよ。」
「いやいやおかげで助かりましたよ。しかしあんた強いんだねえ」
「いえいえ、まぐれですよ、まぐれ。はっはっはっ」
ポップは、この人の強さは本物だと思った。
「すげえや…。こんな強ええ人見たことねえ…」


ポップは帰宅後、ことの始終をジャンクとスティーヌ(ジャンクの妻)に話しまくった。
「すごかったんだぜえ!あの人が『ラリホー』って言っただけで強盗は寝ちまったんだぜ!それに一発で相手を倒しちまった!おれあんなの見たことねえよ!あー、魔法教えてくれるはずだったのになあー。それから剣も教えてもらいてえなあ!すごかったなあ!」
スティーヌが注意する。
「ご飯を口に入れたまま、あわててしゃべるんじゃないわ。」
「だって母さん、ほんっとにすごかったんだぜ。おれあの人に魔法や剣術習いてえなあ!」
「いいかげんにしねえか!」
ジャンクが怒鳴った。
「もう魔王はとっくの昔にいなくなったんだ。おまえは武器の良し悪しさえわかってりゃいいんだ!魔法?剣術?おまえにできるか、いつも何かあるとさっさと逃げ帰ってくるようなやつに!」
ポップは黙ってしまった。






BACK  小説入り口  NEXT