教会。 クリフトはお茶をアリーナに差し出した。 「いかがでしたか?謁見は」 「疲れたわ。でも息子さんはいい方だったしお話は楽しかったわ」 「そうですか、どのようなお話を?」 「内緒」 「失礼いたしました、立ち入ったことをお聞きしました」 「嘘よ。クリフトのことをほめてたわ」 「お会いしたことがないのに?」 「あなたによく似た人だったわ。物腰も考え方も。ただ…」 「ただ?」 「ここからはほんとに内緒よ、秘密」 「おやおや」 クリフトは静かに微笑んだ。 アリーナは苦しくなる。 「聞きたくないの?どんな話だったか」 「秘密のお話なのでしょう?」 「そうよ、だけどクリフトには聞いて欲しいのよ」 「なぜです?」 なぜ? なぜかしら? もっと、腹を立てて欲しいような。 もっと、突っ込んで聞いて欲しいような。 ……? どうしてそう思うのかしら。 そして、はたと気づく。 ああ、そういうことだったのか、とアリーナは思う。 今分かったことは。 あなたがクリフトであること。 クリフトは誰の代わりにもならないこと。 いつも私のそばにいなくてはいけない人だということ。 「クリフト」 「はい」 「秘密の話はね。あなたがクリフトでよかったってことみたい」 「はい?」 「ね、お茶のお代わりをお願いするわ」 「は、はあ」 怪訝そうな顔をしたクリフトを見て、アリーナは失ってはいけないものがなんだか分かったような気がした。 たぶん。 この空間。 クリフトの部屋にあのグリーンの絨毯を敷こう、とアリーナは思った。 一生秘密にしておく話を絨毯だけは覚えているかもしれない、と思ってアリーナはちょっと笑ってみせた。 「姫様…?」 「おいしいわ、今日のお茶は特別」 「それは何よりです」 クリフトにはアリーナがなんだか大人びて見えて少し緊張してしまう午後だった。 |