「え、ほんとに寄っていいの?」 「だって、これ一人では運べないもの」 「そうだよねえ…」 青島とすみれは、その大きな観葉植物の前でため息をついた。湾岸署恒例(?)の大くじ引き大会の特賞が、すみれに当たったのだ。それは、昨日まで、ロビーに飾られていたドラセナ。新しくベンジャミンがロビーに置かれたので、これが、賞品として活用されることになったのだった。 「これって税金で買うわけでしょう。勝手に処分していいの?」 「うーん、まあ、いいんじゃない?勝手に、ベンジャミンだっけ?それが送られてきたんだから」 「でも、もらうほうは迷惑だわ。こんなに大きな観葉植物」 「そうだよねえ…」 すみれのアパートまで、ワゴンで乗り付けた。警務課に無理を言って、ワゴンを何とか1台借りた。警察のワゴンは、あらゆるところに物があふれているので、ドラセナは隅っこに押し込んだ。 すみれの部屋は2階である。また青島はため息をついた。 「男でしょう、このくらい運べなくてどうするの」 「じゃあ、俺こっち持つから、すみれさん、そっち持って」 「緒方君か森下君、連れてくればよかったぁ」 「じゃ、俺、署に戻るから。すみれさんは、もう今日はおしまいなんでしょ」 「青島君、コーヒーどう?」 「え…?」 「手伝ってくれた人を、何も出さずに帰す訳にはいかないわ。さ、上がって」 思いもかけず、青島はすみれの部屋に上がることになった。 部屋はこぢんまりとしているが、綺麗に片付けられていた。青島はあまり女の子の部屋に入ったことがないので、なんとなく落ち着かない。 隅を見ると、ビデオで見た洋服ダンスがある。野口達夫が、この部屋でビデオを撮ったとき、バックに映っていたあのタンスだ。 あの事件のあとも、すみれは部屋も変えず、タンスも処分していなかった。そこにすみれの強さが、見て取れた。それと同時に、この部屋ですみれがどれだけひとりの時間を恐れているのかが、わかるような気がして、青島は胸が痛かった。 「はい、どうぞ。砂糖はいらないのよね?」 「うん、サンキュ」 変な沈黙が続く。早く退散したい、と青島は思った。 「これ、どうやって世話するのかなあ」 急にすみれが言った。青島は、少し慌てる。 「ああ…和久さん、知らないかな…でも、盆栽と観葉植物は違うよね」 「そうよね。調べなきゃ」 また沈黙状態になる。 |