「ねえ、ご飯食べに行こっか」 「あ…俺、署に帰んないといけないんだよね」 「そうだったね。今日はありがと」 「いや、また何かあったら手伝うよ、すみれさん」 「うん」 青島は外に出た。なんかほっとした。でも、すみれにはまた長い夜が来るのだ、と思うと、ここを離れられないような気がした。 「先輩、何調べてるんですか」 「ああ、真下。観葉植物の世話の仕方をちょっと、ね」 「観葉植物ぅ?」 青島のパソコンの画面は、観葉植物の世話について書かれている、ホームページだ。 「仕事しないで何やってるんですかぁ」 「お前だって、自分のHP、ここで作ってんじゃん」 「…すいません」 青島はドラセナという項目を見て、少し微笑んだ。 翌日。すみれが刑事課に入ってくると、青島はすみれを休憩所に連れ出した。 「何よ、青島君。私、忙しいのよ」 それにはかまわず、青島はコーヒーを2缶、自販機で買って、すみれに1缶渡した。 「あ、ありがと。って、何よ。私忙しいって言って―」 「すみれさん、あの観葉植物の名前知ってる?」 「ドラセナでしょ」 「うん、そうなんだけどね。別名があるんだ」 「?」 「『幸福の木』って言うの、すみれさん、知ってた?」 「『幸福の木』…?」 「そう、だから、あの木はすみれさんのためにあるんだよ。あの木は、すみれさんに幸福を運ぶために、すみれさんのものになる運命だったんだよ」 「……」 「何があっても、あの木が、きっとすみれさんを守ってくれる。ね、『幸福の木』だもん。 よかったね、すみれさん」 すみれが、青島に言った。 「青島君」 「ん?」 「青島君は、守ってくれないの?」 すみれは、微笑んだ。青島には、その笑顔がたまらなく良かった。 すみれは、さっと踵を返した。その後ろ姿を見ながら、青島は独り言を言った。 「もちろん、俺も…守るよ、すみれさん」 すみれは、中西係長と何か話していた。でも、その表情はなんとなく柔らかだった。 すみれは帰りに、ドラセナに関する本を買おうと心に決めた。 |
あとがき
ドラセナにもいろいろ種類があるようで