「クリフト?」
「姫様」
「どうしたの、こんな真夜中」
「なんだか眠れなくて」
「そうなんだ、私もなんだ」
「姫様、その鏡は?」
「あ。えっと、ミネアに借りたの」
「姫様もですか?」
「クリフトも?なんで?」
「なんでって、それはその」
「私はね、ある人の想いを確かめたかったの」
「そうですか」
「でも何も映らなかったのよ、クリフトも、そういうことで借りたんでしょ?ねえ、映った?」
「いえ」
「な〜んだ、そうなんだ、お互い様だね」


「どういう方なのです?姫様の想い人は」
「やあねえ、それ、難しい言葉ではプライバシーの侵害とかいうんですってよ。だったら、クリフトが先に言いなさいよ」
誰がそういう言葉を教えたのか、とクリフトは苦笑したが、だいたい見当はついたので聞き返さなかった。その代わり、別の質問をする。
「その前に。姫様、昨夜どうして私が女性と会ったとお思いになったんですか」
「え?うん。香水の香りがしたの」
「は?(ああ、そういえば、香が焚きこめてあった…)」
「だからクリフトは誰かにあってきたんだなあ、と思って。すごく辛くて。ついこの鏡を見てしまったってわけ。―――あ!」



「姫様?」
「あ、あ、あの、そのね。違うの!クリフト、気を悪くしないでね」



「気を悪くするわけないじゃないですか」
「え?えと」
「いい鏡ですね、それ」
「あ…」





バルコニーで下を眺めプライバシーの侵害をしている、ミネアとマーニャ。
マーニャが尋ねた。
「ねえ、あの鏡なんなのよ」
「魔法の鏡よ」
「うそつけ」
「うふふ、あのね、両思いのカップルが、あの鏡を覗き込むと好きな人に会いたくなるの」
「ええ、ほんと?」
「好きな人に気持ちを話さずにはいられない、香が焚きこめてあるの」
「へー、そんなすごい香なら、鏡つきでじゃんじゃん売り出せばいいのに。きっとすっごく儲かるよ!でさあ、カジノにガンガンつぎ込んで、その儲けでまた鏡売り出して!あんたの占いよりずっと儲かるわよ!」
「……姉さんって人は」
「そんなマジになんなくったって」
「まあ、お二人が上手くいきそうでよかったですわね」
「何がよかったよ、あーあ、人の恋愛成就見たってつまんないわねー、まったく金持ちのいい男ってどこにいるんだか。早く父さんの仇討って、あたしもラクチンな人生送らなくちゃ。さ、寝よ寝よ」


マーニャの去ったバルコニーで、ミネアは、少しは遊び癖の治る香を調合せねばと決意するのだった。







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