ソロの部屋。
「ぱふぱふってすごいアイテムだったの」
「そうなんだ」
ソロは内心、ニヤニヤ。
「私も欲しいわ」
「欲しいって…」
「あの部屋に行けばもらえるんでしょう?」
「うーん…俺、あんまり自信ないんだけど、もらうもんじゃないと思うよ」
「???」
「なんていうかさ……あの部屋ではどうだか知らないけど、とても大事な人となら、それは結構素敵なことなんじゃないかなあ」
「ソロは、そのアイテムを使ったことあるの」
「あのさ……アイテムじゃないよ」
「違うの?」
「うん…まあ…」
「ソロは、ぱふぱふをしたことあるの」
クリフトと同じで、ソロも飲んでいたワインを噴き出した。
「な、ないよ!」
「……何で、そんなにみんな噴き出すわけ」
「いいから、もう部屋に戻って寝ろよ」
ソロは言葉に窮し、それだけ、かろうじて言った。




アリーナは部屋に戻った。
「愛を深め、愛を取り戻す。もらえるものじゃなくて、してあげるもの…。
一体なんなんだろう?大事なものなのよね、たぶん。そして、一番好きな人にするのよね、きっと」
そこで頭に浮かぶブルーの髪。心臓がはねる。
「な、何でここにクリフトが浮かぶのよ…でも…」
…………………。トクン。
…………………。トクントクン。
…………………。トクトクトクトク………。
「わかった!」



アリーナはクリフトの部屋に飛び込む。
「クリフト!聞いて!ぱふぱふがわかったの!」
クリフトはまた紅茶を噴き出した。
「な、な、何を」
「私ね、ぱふぱふがわかったの!」
「そ、そうですか、しかし姫様、今は真夜中です。お部屋にお戻りください」
「ぱふぱふしてからね」
「!!」
クリフトからすれば、状況が非常に悪い。
真夜中、アリーナと二人きりでいるのを、ブライにでも見られたら、なんと言われるかわからない。
「ひ、姫様。どうぞお部屋に――」
あとは続けられなかった。なぜなら唇に優しい感触が。かすかにリンゴの香り。
「な、何をなさるんです!」
「うふふ。ぱふぱふってこういうことよね?好きな人にキスすることでしょ?」
「は……あ?」
「愛を深めるのってキスが一番だと思うのよね。何でぱふぱふって言うんだろ?」
「…………」

しかしここでクリフトは重大なことに気づく。
「ひ、姫様は結婚前の方です!こういうことは結婚なさってから、その……旦那様と!」
「だってクリフトが好きなんだもの」
「………!」
「愛を取り戻す効果があるなら、愛してくれる効果もあるんじゃないかなあ?」
「?」
「好きな人って考えたとき、クリフトが浮かんだんだもん」
「…………」
「きっといつか私を好きになってね!」

クリフトの心臓の鼓動が早鐘のように打つ。
「姫様…あの、私は…」
「クリフト。シナモンの味がしたよ。明日はミントティーがいいな!じゃあおやすみなさい!」
「…………」
アリーナはバタンとドアを閉めた。
(夢だ、これは夢なんだ、悪い、…いや、よい夢なんだ)
クリフトは熱が出てくるのを感じる。眠れなくなった。




翌日。宿屋は大騒ぎ。
「大変よ!クリフトがすごい熱!」
「いったいどうしたんだろう?」
「二日酔いではござらんかな?」
「姫様。またパデキアがいりますじゃ」


その様子を見てマーニャが笑っていた。
「やっとわかったのねえ、お姫様は」
ミネアはため息をついた。
「姉さんのせいよ、アリーナさんにけしかけちゃったんだわ。ぱふぱふなんて言うから……」
「けしかけたなんて人聞き悪いわね。あの鈍感なお姫様が、やっと自分の気持ちに気づいたからよかったじゃん。
相手は堅物のクリフトだもの。あんなことでもなきゃ前進しないわよね」
「あんなことって?」
「アリーナね、昨日クリフトとキスしたの。純情よねー、クリフトは。キスぐらいで倒れるなんて」
「……姉さん、何でキスしたって知ってるの?」
「あ…」
「姉さん!?」
マーニャは脱兎のごとく駆け出した。







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