「私は、姫様のそばでお仕えしていることこそが最良のことなのです。
あなたのいないところに行っても、私には意味がありません」



かなり緊張して言った一言だった。



だったのだが……。







「誰が、クリフト一人でアネイルに行けって言ったのよ、そういう意味じゃないわよ。
私も行くから一緒にどうなのって意味なの。 私も久しぶりに温泉に行きたいし。
ブライも誘ってみんなで行かない?」
「………は、そ、そうですね、ありがとうございます」
「どうしたの」
「いえ、なんでも…」





目の前の愛するお姫様が、分かりかけたことが完全に分かる日が来るのは、
この先、もうしばらくかかるだろうなあ、とクリフトは思うのだった。





「クリフト」
「はい」
「ずっとそばにいてね」
「え?」
「私、分かりかけたことってきっとそういうことだと思うの。
それがちゃんと分かるまで、そばにいてね」
ティーカップを落としそうになってクリフトは慌てる。
「は、はい、私でよろしければ」



「しんどかったら言ってね。クリフトはクリフトのままでいいのよ、人から見られてるなんて意識しないでいいんだから」
「はい」
「辛いときはちゃんと私がそばにいるよ」
「はい」
クリフトはなんだか泣きたくなってきた。




が……。
「そういうときは、体を動かして気分を変えるのよ」
「え?いえ、それはちょっと……」
「本ばかり読んでるからだめなのよ。さ、そうと決まったら、今から組み手の練習よ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!私は、そんな」
アリーナはクリフトの手を取るや、中庭に駆け出した。







無理やり引っ張っていかれながら、クリフトはここのところの辛かった思いが
氷解していくのを感じていた。







Fin.







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