自然体





「疲れない?」
突然アリーナがつぶやいた。

「何がですか?」
クリフトは主語がないその問いかけに首をひねる。


今日は戦闘がいつもより多くて、みんなクタクタになってようやく宿までたどり着いたのだった。
ルーラを使う魔法力さえ残っておらず、キメラの翼を使ったということでも、疲労度がわかる。

そんな中、クリフトは残ったわずかな魔法力でみんなにホイミをかけまくり、なおいっそう疲労しているのに、今、彼は、何をしているかというと、明日、みんなに手渡す予定の薬草や毒消し草を揃えているのだった。
アリーナはそれをぼんやり見ている。そしてさっきの質問になったのだ。


「あなたよ」
「私は大丈夫です、姫様もどうかお休みください、すぐ終わりますので」
「そうじゃないの」
「はい?」


「そうやって。いつも自分を犠牲にして。人から『クリフトっていい人なんだ』って言われて。そういうのって疲れない?『いつもいい人』でいるって、疲れない?」
「………え…」
「ま、いいわ、お休み」
アリーナは部屋に行ってしまった。



クリフトは呆然と立ち尽くしていた。
今のはどういう意味だ?

いい人でいることって疲れない?
そう、姫様は仰った。

自分がいい人だなんて思ったことはないし、いい人だと思われたいとも思わなかった。
自分はまだまだ未熟者で、だからこそ、少しでも人の役に立ちたいとばかり…。



姫様はどうして。



鼻につく、という意味なのだろうか。
何だかむなしくなって作業をやめてしまった。







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