「神様の元では、みんな平等なのかなあ」 「神は誰も優しく迎えてくださいます。平等に」 「じゃあ、私が神様の元に行ったら、身分なんか抜きにしてクリフトと結婚できるかなあ」 「それは……。神様の元で姫様方お二人は愛の誓いをなされたのですから、ちょっと難しいかと」 「なーんだ」 「何だとは何ですか。神を冒涜してはなりません」 「大げさね、相変わらず」 「真面目にお話しているのです」 「懐かしいわ、クリフトの説教」 「……失礼いたしました」 「ううん、ねえやっぱり天国に行ったら、私と結婚して」 「神がお許しにはなりません」 「そうかなあ。あ…クリフトは私が嫌いなの?」 「まさか!あ、いえ、その」 「赤くならなくてもいいのに。じゃあクリフトは天国で私と結婚ね」 「…………」 「ねえ、クリフト。私たちはこの世では、お互いに乗る馬車が違ったのよ」 「…………」 「でも、きっと天国では同じ馬車に乗れるわ」 「…そうですね、きっと」 「そうよ」 「クリフト、約束よ」 「はい」 教会からざわざわした声が聞かれ始めた。 「あ、みんな気がついたみたい。私もう行かなくちゃ」 「そもそもどちらへお出かけだったのですか」 「うん、結婚10周年の船旅。ローゼンに行くはずだったの。あの人はルーラが使えるんだけど、どうしても船にして欲しいって私が頼んだの。だけどこうなっちゃったんじゃルーラしかないわね」 「そうですか。姫様、お気をつけて。お元気で」 「またここに来てもいい?」 「いいえ、いけません」 「クリフト」 「本当に天国で私と会いたいとお思いなら、一生いい妻でありいい母でなくてはなりません。神がお許しにはなりません」 「はあー、神様って結構厳しいのね」 「姫様!!」 「はいはい、わかった。もう二度と来ない」 「…………」 「でもいつもクリフトのそばにいるよ、きっと」 「はい。私もきっと姫様のおそばに」 「うん。じゃあ元気でね。クリフト」 「姫様もお元気で。どうぞ皆様によろしく」 「うん」 クリフトはアリーナと握手を交わした。もう二度と会えない別れの握手。でもそれは永遠に続く握手のはず。 立ち去るアリーナを見るのが辛くて、でもアリーナを見ておきたくて、懸命にクリフトは涙をこらえた。 その時アリーナが振り返った。クリフトは慌ててしまう。 「ねえ、クリフト」 「は、はい」 「子供の名前はね、クリフトっていうの。あたたかくて博識で優しい人になってもらいたくて」 「………」 「じゃあ元気でね!さようなら!」 扉がいきおいよくバタンと閉じられた。それは、あの頃と変わらないアリーナの扉の閉めかただった。 アリーナのいなくなった部屋で、クリフトはずっと涙を流した。 二人が交わした約束は、あてのない、むしろかなうはずのない約束。 そしてそれはきっと神に許されるはずのない約束。 神に仕える身の自分がしてはいけない約束。 きっと私は天に召されないだろう。 でも、その約束だけが今のクリフトに許される希望だった。 クリフトの遠い記憶は、たどりつくことのない未来へ受け継がれる。 |