約束



都会から遠く離れた小さな島。1羽の伝書鳩が教会に降り立った。
中から神父が出て来て、鳩が運んできた手紙を受け取った。
白い鳩は、自慢げにクルルと一声鳴いた。
「よしよし、ごくろうさま。さあ向こうで休んでおいで」
神父はそう言うと、鳩を小屋に放した。

サランの町の神父から、数ヶ月に1度、この島の神父クリフトに届く手紙。
もっともサランの町のほうの神父は、代替わりしていた。しかしクリフトへの手紙はずっと変わらず届けられていたのである。

「今回はどういう内容だろう」
今は遠く離れてしまったサントハイムについて知ることができるのは、定期的に届くこの手紙しかなかった。



*親愛なるクリフト様

*そちらでは、もう夏の日差しが照りつけていることでしょう。こちらは、初夏といったところです。サランにも、サントハイム城にも、色とりどりの花が咲き乱れております。

(そうだろうな、中庭では芝桜が美しいだろう。姫様の最もお好きな季節だった)

*ただ、今回は悲しいお知らせをせねばなりません。先月、女王陛下がお亡くなりになりました。

クリフトは手紙の文面を一瞬理解できなかった、いや理解したくなかった。

(亡くなられた…?)

*すぐにでもお手紙を差し上げたかったのですが、絶対に知らせるなとの女王陛下のお言葉があり、今日まで連絡することができませんでした。

(え………?)

*国葬は先日執り行われました。王家の墓へ女王陛下をお移し申し上げました。今サントハイム国は全土、喪に服しておりますが、喪が明けましたら、クリフト王太子がご即位なされサントハイム国王となられます。

*クリフト様、もしよろしければ、こちらに一度お見えになりませんか。亡きアリーナ女王もきっとそれをお望みだと存じます。詳しくはその時お話いたしましょう。

*サラン教会 エルジェ



呆然として手紙を見つめるしかなかった。
姫様がお亡くなりになるなんて。まだお若いのに。
頭の中は「なぜ?」という言葉がどうどうめぐりしていた。
そのうえ、手紙の内容に混乱していた。
姫様が知らせるな、とおっしゃったとはどういうことだ?
ここのことは誰にも――。

とにかくお悔やみの手紙を書かなくては、と思うのだが、持つ羽ペンが震えて文章にならなかった。
便箋はたちまちシミだらけになってしまった。
結局、数行悔やみの言葉を書いただけで、鳩にくくりつけてしまった。



クリフトは教会でただただ祈りを捧げた。何も考えられなかった。

仕事はシスターに頼んだ。
村人は以前2度ほどそういうことがあったので、今回も神父に何かあったな、という察しはついた。






「遠い記憶」の続編のつもりです。
できれば、そちらからお読みいただければと思います。





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