「姫様、そ、それってどういう意味なのでしょう?」 クリフトの緊張ぶりが手に取るように分かる。俺はなぜか握り締めた手に汗をかいている。 「どういう意味って、そのままの意味よ。クリフトもブライも大事な家臣だわ、一番信頼できる家臣よ」 「そ、そうですよね」 クリフトの落胆ぶりが手に取るように分かる。俺は笑いをこらえるのに枕に顔を突っ伏している。 「そうよ!ね、せっかくだから軍を見に行きましょうよ!朝の鍛錬もしたいしね!」 「はい、参りましょう」 二人がいなくなった気配のあとで、俺は大笑いしていた。 なるほど、たいした天然ぶりだ。 クリフトの天然もすごいが、アリーナの天然ときたら、それこそ天然記念物だ。 クリフトが戻ってきた。 「あ、お目覚めですか、もしかして、朝から姫様が起こしてしまいましたか?すみません、姫様には申しておきますので…」 「お前って面白いやつだな」 「はい?いったい…?」 「いやいや、俺はお前と知り合ったばかりだから、今朝まで気づかなかったんだけど、あのお姫様が好きなんだな」 「………!!!」 クリフトの表情が驚愕に変わって、そのあまりの真っ正直さに、吹き出した。 「わかりやすいやつだなー、ま、よく言う道ならぬ恋ってやつかも知れんが、愛に身分はないって言うし、頑張れよ」 「からかってらっしゃるんですか!なんて趣味の悪い!」 「馬鹿な。応援してるんだよ、いやーいいなあ、青春してるな!」 「ソロさん、怒りますよ」 単純なやつだ、からかいがいがあってますます面白い。 だが、ちょっとシリアスになってみた。 「なあ、俺はもうシンシアには会えない。だから、お前には幸せになってほしいよ。これは本心から言ってるんだぜ」 クリフトは急に悲しい顔をした。 「すみません、自分のことばかり申しました……」 「だから、そんな気を使うなよ、ま、お前が面白いやつだと分かってよかったよ、これからもよろしくな」 「面白いだなんて、私は真面目にですね、姫様のこともシンシアさんのことも」 「分かった分かった」 俺は朝からいい気分だった、こんなに単純に気のいいやつは初めてだ。 それからの俺は。 塔を登るたび、気球に乗るたび、世界樹を登るたび、クリフトの高所恐怖症に大笑いし。 何かというと、アリーナアリーナのクリフトの性格にさらに大笑いし。 (お前はホイミをかける順番はどうしてもアリーナからでないといけないのかよ!) それでいて、やっぱり周りに気を使うクリフトの性格に微笑んでいた。 旅の終わるころ、俺は、女に生まれてこなかったことをほんの少し後悔していた。 5年後、サントハイム城から結婚式の案内状が届き、式であたふたして、いつもの落ち着きはどこへやらのクリフトと少し呆れ顔のアリーナを見て、俺は教会で爆笑してしまい、危うくライアンに斬られそうになるほど憤慨されたのは秘密だ。 俺の横でシンシアもくすくす笑っていたのは言うまでもない。 |