この日の午前中は、交通課の婦警たちが、刑事課の面々にチョコレートを配っていた。
義理チョコは、どれも形が同じだから、すぐわかる。
青島と真下は、盗犯係の武だけ、なんかチョコが大きいように思ったのだが、それを言うのはあさましい気がしたので、何も言わなかった。

既婚者は独身のミニスカポリスに、チョコレートをもらえるだけで、うれしそうだった。
「いやあ、悪いねえ、君たち」
「僕にもいいの、ありがとう」
「おう、俺にもくれんのか、お返しは奮発すっからな」
どうせ和久のお返しはせんべいかおかきだろう、と思いつつ、彼女たちは、暴力犯係にも配り始めた。


午後は、すみれと雪乃がチョコレートを配り始めた。
今日は珍しく、午後から事件がなく、みんな溜まった書類書きである。

「はい、青島君」
「すみれさん、悪いね、雪乃さんも、ありがと」
「ホワイトデーは、デパ地下のチーズケーキね、あ、どこのでもいいってわけじゃないのよ」
「すみれさん…もう予約するの……」
「当り前じゃない。勝手に青島君が選ぶんじゃ、何食べさせられるか、わかったもんじゃないもの。あ、真下君は、そうね…駅前に新しくできたでしょ?ケーキのお店!そこのエクレア。お願いね」
「…どうして僕たちだけ指定なんですか」
「だって、中西係長は、結構センスのいいお菓子買ってきてくれるんだもの、奥さんのお見立てだと思うけど。武君も、いつもおいしいクッキー買ってくるのよ。魚住さんのお返しは、毎年、奥さん手作りのすっごくおいしいイチゴのタルト」
ここで名前のあがった三人は、満面得意げの笑みだった。


「それにひきかえ、あんたたちは」
「な、なんなの、すみれさん」
「すみれさん、僕たち、ちゃんとお返ししましたよぉ」
「あれ、お返し?レインボーカステラなんて、食べ飽きてるわよ!それに二人で1個なんてどういうつもりよ!」
今年はレインボーカステラにしようと思っていた袴田は、急いで善後策を考えるのだった。

「すみれさん、俺たちばっか、リクエストなんだ。和久さんには言わないの?」
「和久さんには今年は、お昼ご馳走してもらおうと思って」
「おう、いいぞ、すみれさん。そっちのほうが考えなくていいからいいや」
青島と真下は顔を見合わせてため息をついた。

「でも、雪乃さんはリクエストしないよね」
「雪乃さんはすみれさんと違うもの、ね、雪乃さん」
「どういう意味よ、それ」
「私は、なんでもいいですよ」
「さっすが、雪乃さん」
「すみれさんとは雲泥の差だね」
「青島君?」
「はいはい、ちゃんと買ってきますよ、チーズケーキを」






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