「今年も本命チョコもらえなかったなあ…」
いつもの休憩所で、真下がコーヒーを飲みながらため息をついている。
隣の青島は「まあ、そうがっかりすんなよ、係長」と慰めた。
「先輩はいいですよ、どうせすみれさんから本命チョコもらうんでしょ」
「へ?」
考えもしなかった青島は、変な声がでた。
「どういうこと?」
「こないだ、すみれさんが、ケーキ屋にいたの、僕見たんですよ」
「ケーキ屋ぐらい、すみれさんならいつものことだろ」
「でも…ケーキの箱には見えなかったけどなあ」
それを聞いて、青島は少し胸が痛んだ。
(胸がチクッとした、という表現がぴったりだった。)



その日の夕方、魚住はさっさと帰り支度をはじめていた。
「僕は、アンジェラがケーキ焼いて待ってるから、これで失礼するねえ、お疲れさん」
うきうきという言葉がぴったりの魚住を見ながら、青島と真下は、またため息をついた。
「魚住君はいいねえ、いつまでも新婚みたいだねえ」
袴田の声が魚住の背中に重なる。聞こえているのか、いないのか、魚住は嬉々として出ていった。
すみれが言う。
「ほーんと、魚住さんみたいな人が旦那さんだったら幸せよねえ」
「でも、出世はしないみたいですよねえ」
真下がつぶやいたその瞬間、魚住が後ろに立っていた。

「ごめん、聞こえちゃった」
一同沈黙。






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