クリフトは桜の枝を見た。
「……生きようと思いましたよ」


アリーナのほうに向き直る。
「あなたを置いていくなんて嫌だったから。あなたのいないところに逝ってしまうのが嫌だったから」



アリーナは泣き出してしまった。

「そうよ……。その通りよ、だから、ね、ホイミを使ってみてよ、パデキアも試してみてよ、お願い」
「いけません。呪文や道具はその持ち場というのが決められているのです。
姫様、私が召されるのは神様の思し召しですよ」
「そんな神様なら要らないわよ!!」
「姫様!」
「叱ればいいわよ!クリフトを勝手に連れて行く神様なんか、私は金輪際信じないわ!!」
「なんてことを!」
「私は絶対諦めないわよ!」


クリフトは静かに言った。

「姫様。私は逝ってしまう、って申し上げましたが、ここに残りますよ」
「何を言ってるの、意味わからないわよ」
「もし。もし、私が逝ってしまったら」
「聞きたくないわ」
「いいえ、どうか、聞いてください、もし、私が逝ってしまったら、必ず中庭の桜の木を見てくださいね」
「桜がどうかしたの」
「私はそこに必ず来ますから、あなたに会いに必ず」
「馬鹿みたい、子供じゃないのよ。お母様を亡くしたあと、みんな、私にそんなこと言ったわ。
お母様は、いつでもアリーナ様を見ておいでですって」
「その通りですよ」
「そうかもしれないけど私には見えなかったわ。あなたも同じことよ。そうやって、私を、……私を…慰めて……」

泣きじゃくってアリーナの言葉が続かなくなってしまう。

「忘れないでくださいね、今、私が申し上げたことを」
クリフトはアリーナの手を握り締めた。


「姫様はあたたかいですね。姫様と過ごすことができて、とても幸せでしたよ。私は世界一の……」
「クリフト…?」



力なく落ちた手。







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