「いやだ!私を置いていかないで!誰か、誰か!侍医を呼んできて!早く」 城内が騒然となる。 「クリフト殿がお亡くなりになりました!」 「ただちにご葬儀の準備を!」 「国内外への連絡を!」 アリーナだけが城内のざわめきから取り残される。 いや、叫んでいたが、誰も取り合わない。 「置いていかないで!ねえ、誰かザオラルをかけて!ソロかミネアを呼んできて!」 女官たちがアリーナを部屋に戻そうとする。 「いやよ!私はここにいるわ!まだクリフトは死んでいないわ!必ず来るって!桜の木の!」 「姫様、とにかく一度部屋に戻りましょう」 「必ず来るって言ったわ!だからクリフトを連れて行かないで!」 二人掛かりで、アリーナは部屋から追い出された。 葬送の儀。 めまぐるしいだけだった。次期女王の夫が亡くなったことで、あらゆる面においてただただ忙しいだけだった。 感傷に浸る間もなかった。 桜の花が散って、新緑の季節になっても、桜を見に行くことさえかなわない。 3ヶ月が経った。 慌しかった悪夢のような数ヶ月だった。 しかし、今はもう、元の静かなサントハイム城に戻っていた。 アリーナは一気に年を取ってしまった気がしていた。 何気なく中庭を歩いていて、そうだ、桜、と思った。 桜の木は、緑の葉を茂らせていた。 「来たわよ、クリフト、ずっとほったらかしておいてごめんね」 何も起こらない。 「やっぱりそうじゃないの、嘘つき。何が絶対来るよ、子供だましもいいとこだわ。ひょっとしたら、なんか奇跡でも起こるかと思ったわよ、クリフトの馬鹿」 <馬鹿とはなんです、姫様は失礼だ> 「え?」 そう聞こえた。 「嘘!クリフト!クリフトなの?」 何も聞こえない。 「もう一度だけでいいから!ね、お願い、返事して!」 何も返事がない。 気のせいだったのだろうか。 |