「つまらないわ。幻聴まで聞こえてしまうなんて、私も長くはなさそうだわ」
桜の枝を見上げた。
「あ…れ…?」

小さな赤い実。

「さくらんぼ!?」



よみがえる小さい頃の思い出。
この木の下でアリーナはクリフトに無茶を言っていた。

「さくらんぼが食べたいのよ!」
「姫様、桜の木には、さくらんぼのなる木とならない木があるのですよ。
これはさくらんぼのならない木なのでしょう」
「なんで、木によって違うのよ!さくらんぼが食べたーい!」
駄々をこねたアリーナに、その日出されたおやつはチェリーパイだった。


「さくらんぼのならない木って言ったじゃない、昔からクリフトって嘘つきだったのね」

二つつながったさくらんぼを取ってみた。
「このことだったの、絶対来るって。何だかだまされた気分だけど許してあげるわ」

ひとつ食べてみる。
「うわ、すっぱ。クリフトって詰めが甘いわよ。すっぱくて食べられない……」
何度涙を流したかわからないのに、また涙が出てくる。
「私を置いていくなんて……」



中庭の桜の下に倒れているアリーナを見て、女官が慌てる。
「姫様!どなたか、いらっしゃいますか!姫様をお部屋へ!!」








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