「ちょっと手洗ってきていいかな?」
アリーナは汚れた手を振りながら、明るく言った。
「うん、早く洗ってきたほうがいいわよ」
ソフィアは優しい笑顔を見せた。
「魔物に気をつけてくださいね」
ミネアも声をかけた。




アリーナは少し離れた川辺で、ぼんやり手を水に浸していた。
マーニャの言葉が頭に浮かぶ。


『世の中には、生まれてから一度も台所に立ったことのない…、ううん、立つ必要のない人もいるんだなあ』


そう、必要なかったからしなかった。
食事が出てくるのは当たり前のことでしかなかった。


何にもできない…私は。


できないことなんてないと思っていた。
テンペの村を助け、お父様の声を治し、エンドールの武術大会には優勝し。
だから。
自分がいれば、何でもできる。そう思ってた。
一人旅だって余裕だと。

でも、そうじゃない。
私は、みんなにはなんでもない、野菜を切ること、すらできない。

できないんだ。
一人で何でもできるって、自惚れすぎていたんだ。







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