「ご自分を卑下なさってはいけませんよ」
「ううん。そこまではないわよ。ただ、私は何にもできないんだなあと思って」
「したことのないことは誰だってできません」
「でもね、情けなかった。恥ずかしかった。今まで当たり前だと思っていたことは、当たり前じゃなかったのね。そんなことも知らなかった」
「…………」
「わかったことがあるの」
「?」
「いつも誰かに助けてもらっていたの。でも今までは、あんまりそう思えなくて」
「姫様が頑張ってこられたから、ここまで旅ができたのです」
「ううん、そうじゃないの。…って気づくのが遅すぎたけど。
私が魔物を倒す時、クリフトがスクルトを唱えてくれるから、ブライがバイキルトを唱えてくれるから。
だからあんなに簡単に倒せたのに。そんなことさえ気づいてなくて、自分ひとりの力だって思い上がってて」
「…………」
「一人では何もできなかった、きっと」
「そんなことはございません。姫様なら、何でもおできになります」
「慰めてないで『そう、一人では何もできませんよ』とか言いなさい」
「すみません」
「謝らなくてもいいわよ」


また黙って歩く。


クリフトが静かに言った。

「……姫様、私たちは一人一人だと小さい存在です。でもこうしてみんなが勇者のもとに集まって、そして同じ目的に向かっていくとき、それは大きな存在になります」
「そうね」
「だから姫様は姫様のおできになることをなさればよろしいのです」
「できることなんて、あるかなあ」


「たとえば」
「うん?」
「さきほど、私の薪を強引にお取りになった。姫様は、困っている人を見るとほうっては置けない優しい方なんです。そういうことが姫様の素晴らしいところですし、おできになることですよ」
「こじつけみたい」
「自分は何もできないなんて思わないでください」
「だってそうだもの」
「一人では何もできないから、みんなで力を合わせるんです。人間は一人では何もできません」
「………うん。あのね、今夜のことはいい経験になったと思ってるの。自分の無力さを確かめられたというか、そんな感じ。私一人では何もできないということも実感できたし、みんなに助けられてきたこともすごくわかったの。もちろんクリフトにもね」
「…………」







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