村はずれで、いきなり赤い炎がアバンに飛んできた。

「せーんせい!」
ポップがメラを飛ばしたのだ。
「いけません!魔法は人に向かって打ってはなりません!そんなことをするために君に魔法を教えたのではないのですよ!!」
「ごめん!先生!……先生、おれも連れて行ってください!」
「……何を言ってるんですか、君は…」
「うん、家出してきた」
「いけません!すぐ帰りなさい!!」
「先生、おれ決めたんだ。必ず一流の魔法使いになるって」
「…なんでそうなりたいんです」
「うーん、そう言われっと困るんだけど、そうだなあ、先生と旅してえってとこかな?」


ポップのこの言葉にアバンは少し微笑んだ。
勇者の手助けをするべき魔法使いとしては、ちょっと頼りない気はするのだが、ゆっくり育てていけばいいだろう。
何より家出をしてきたくらいだから、ひょっとしたらいい根性しているかもしれない。

何よりこの子は第一印象で、きっとすばらしい魔法使いになると思った……。なんとなく惹かれてしまう子だった……。


「しばらくは家には帰れないのですよ」
「あんな家、しばらく空けてたってなんてことはないさ」
しばらくとはどのくらいのことなのか、アバンにも見当がつかない。長くなってしまったら家族も心配するだろう、と考えてしまう。
「先生、大丈夫だって。あの親父、おれがいなくなってせいせいするんじゃねえかな?」
アバンの心配がわかったのか、そんなことをポップは言った。
「……何があるのかわかりませんよ、いいんですか?」
「先生と一緒だったら何があっても大丈夫でしょう?だって先生すっげえ強ええもん」
ポップが絶対的にアバンを信じていることが、よくわかった。

「……私は君を連れて行きたいと思ったのですよ。お父さん、お母さんには申し訳ないけれど、君を一流の魔法使いにしたら、きっとお許しいただけるでしょうね。こうして君が来てくれたことが、うれしいですよ。……ほんとにいっしょに来る気があるんですね?」
ポップはしっかりうなずいた。
「では行きましょう。これからはランカークス村での授業のような生易しい授業ではありませんよ。『特訓』ですからね」
「『特訓』?なんですか、それは?」
「まあついてくればわかるでしょう。あなたには『特別(スペシャル)ハードコース』は無理かもしれませんねえ」
そう言うとアバンは大笑いした。
「……?」


ポップにはこれからとんでもない日々が始まることはまだわかっていない。
それは同時に楽しい日々にもなるのだが。
(さようなら、ランカークス村。おれこの人とならきっといい時間が過ごせそうな気がするんだ。必ずすっげえ魔法使いになってみんなを驚かせてやっからな)

そして、ちらとジャンクとスティーヌのことが頭に浮かんだ。

あの家に親父と母さんと二人きりになるんだなあ、と思うと少し胸が痛んだ。







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