話は変わる。 クベルスという男がいる。この近辺の領主である。 クペルスは昨日の出来事…アバンが強盗一味を倒し、村の注目と尊敬を集めてしまったことが、頭にきていた。 彼は若い頃、30年も前の話だがベンガーナで兵士長をしていた。今でもそのことを子供に自慢して回るのが、彼の唯一の楽しみだった。 ここに事実上の左遷をされた時以来「この辺の村は小さい、わしのような者には耐えられん田舎だ」などと威張りまくっているので、誰も相手にしない、しかし領主には違いないから表向きはみんな従っているが、心の中では、早くこいつが出て行ってくれないかな、と思っているのだった。 要するにこいつさえいなければいい村なのに、とみんなが思っている人物だった。 クペルスの自慢の種だった兵士長という肩書きは、突然現れた若い男の前には紙切れのようであることをいやというほど思い知らされた。 証拠のない昔話より、目の前で起こったことを誰でも信じる。この村中で誰も彼もがアバンの噂をしている。不愉快でたまらない。 「いきなり村に来て、でかい顔をされてはわしの立場がない!いったい何を考えておるのだ、あの男は!」 アバンのせいではないのに、逆恨みもいいところである。しかしこの逆恨みがとんでもないことになるのだ。 クペルスは何とかアバンの人気を下げる手段はないかと考えに考えた。(もっと違うことに頭を使えば彼の人気も上がるのだろうが) そして自分の家来を使い、あらぬ風評を流したのである。 【宿屋での出来事は、アバンというやつの作り事だ。最初から強盗とグルになって仕組んだことだ。 どういう理由かはわからんが、ひょっとしたらこの村を乗っ取ろうなどと考えているのではないか。あんなに簡単に強盗がやられるというのがおかしいではないか。 呪文も眠った振り、やられたのもわざとやられたに違いない。その証拠に『強盗は結果的に何も取らなかったのだから、彼らを信じてここは許してあげましょう』などと言ったではないか】 村の人たちは村の乗っ取りについては 馬鹿馬鹿しすぎてまったく信じられなかったが、強盗がわざとやられたのかもしれないなとは思い始めた。 実は村人たちも強盗を逃がしてやるのに、若干躊躇はしたのだ。でも優しい人たちばかりだから、強盗をやっつけてくれたアバンの意見を受け入れたのだった。 もしあれが作り事だったら?なんのために?でも、そんなことはないだろう……。 少しアバンを取り巻く空気が悪くなり始める……。 |