噂はすぐに広まる。悪い噂はよけいだ。あっという間にアバンは悪者扱いされてしまった。
いや、村人はアバンのことを信じたいのだが、100%信じられない、といった感じだった。

生まれてこのかた、アバンは人から悪く言われたことはない男だった、尊敬ばかりされてきた、その男がこの村では、みんなから若干の距離を置かれ始めている…。
子供たちも魔法は覚えられないし、なんとなく、大人たちが変な雰囲気なので、教室に行かなくなってしまった。

そんな中毎日ポップだけは嬉々としてアバンに会いにきた。
「先生!おれはメラ以外の呪文も覚えてえ。おれに別の魔法教えてくださいよ!」
それには答えず、アバンは言った。
「…ポップ君。君はよく毎日通えますね。私がいることで、村の雰囲気がすっかり悪くなってしまいました。私は残念です…」
「先生は何も悪くないって、親父が言ってたぜ」
「……?」
「親父はわりいのは、あのクペルスに違いねえって言ってた。おれもそう思う。親父はあいつはなーんか裏のありそうなやつだって、いっつも言ってる。強盗を一撃で倒した先生、すごかったよなあ、あの光景を信じられねえやつは、バカだと思うぜ。先生は悪いことなんか絶対してない。先生はちっとも悪くないですよ、先生、おれは先生のこと信じてます!」
「ポップ君。君がそう言ってくれるだけで私は救われる気持ちですよ。でも私はもうすぐここを出て行くつもりです。いつまでもこの村をこんな状態にはして置けませんからね」
「ええっ!?先生!まだいて下さいよ!おれ何にも教わってねえのに!」
「……君はもっと教わりたいのですか?」
「ええ!先生!だからもっとここにいて下さい!お願いします!」
アバンは少し微笑んだ。
「わかりました。ではもう少しだけ君に魔法について教えましょう」
「そうこなくっちゃ!」

アバンはこの少年にもっともっといろんなことを教えたい、いや、ここにきて、弟子にしたいと思った。
しかしこの子はいずれあの武器屋を継がなくてはならない、自分の都合でこの子を連れて行くわけにはいかない、と思うのだった。






BACK  小説入り口  NEXT