「城内といっても別にたいしたことないでしょ」
「先ほど、ちらと拝見いたしましたが、中庭が美しいと思いました」
「そうね、では中庭を案内しましょう」


二人は中庭に来た。ちょうど夏の花が咲き誇っている。しかし渡る風は涼しく心地よい中庭だ。
シャルルは突然謝った。


「先ほどは父が無礼を申しました、父に代わりお詫びいたします」
「何のことかしら」
「王女様に城の案内を頼むなど大変な失礼を」
「いいわよ、私も商談は興味なかったし。あ、ごめんなさいね。商家の方に対して」
「いえ、とんでもないです。しかし父には別の腹積もりもあったようで……そのことが腹立たしく、また、恥ずかしく……」
「うーん、私もね、一応、王家の人間だからいろんな方にお会いしてきたのよね、あなたのお父様の思ってらしたことは分かるわ。要はあなたを婿入りさせたいというおつもりなのよね」


アリーナは決して怒っているのではなかった。顔は笑っている。
「……ご賢察のとおりです。しかし、王女様。私には微塵もそういう心積もりはなく」
「王女様ってめんどくさいわ。アリーナでいいわよ、呼び捨てが気になるならアリーナさんでいいわ 」
「は、はあ。とにかく私はそういう気持ちでここに参ったのではなく、純粋に商談見習いをしようという思いで参りました。いえ、その、アリーナさんが嫌いだ、とかそういう意味ではなくて」


アリーナは噴き出した。
「わかったわ、よく。でも私も結婚とか全く考えもしてないし。それにしてもあなたはとてもいい方なのね。正直で謙虚でそしてまっすぐで」
「くすぐったい思いがいたします」
「あら、ほんとにそう思うのよ。あなたに似てる人を知っているわ。クリフトみたいよ」
「クリフトさん……。アリーナさんとご一緒に冒険なさった方ですね、トルネコさんからよく話を聞いていました。とても献身的にお仕えなさってらっしゃったとか」
「そうねえ…。いつもいっしょにいるから分からないけどきっとそうなんだと思うわ。ほんとに感謝してるわ、クリフトに。ただ、改まって言ったりはしないけどね」
「特に仰らなくてもお互い分かり合っておられるのでしょう」
「……そう…なのかな?」
「一度クリフトさんが大病を患われたときとてもご心配なさったとか。トルネコさんとの出会いもその頃だったとお聞きしています」
「…うん。あの時は心配したわ。クリフトは私が助けようと思ってね。結局は助けを借りた形になったけど」


「クリフトさんを失うことが恐ろしかったのでしょうね」
「……え…?」







BACK    小説入り口  NEXT