翌日。よほど待ち望んでいたのだろう。アリーナは早々に出かけた。ために、その日の朝はいつもの騒々しいサントハイム城ではなかった。 一方、謁見の間にクリフトはいた。国王は玉座に座り、そばにはブライが控えている。 「クリフト、硬くならずとも良いぞ」 「はい、お話とは…」 「うむ。これを見てもらおう」 国王はサイドテーブルに高々と積み上げられた手紙の束を指差した。 「何でしょうか、その手紙の束は」 「クリフトよ。単刀直入に言おう。結婚する気はないか?」 クリフトは、今国王の言ったことが、とっさには理解できなかった。 「あ、あの…」 「見よ、この手紙の束」 「あの…それは…いったい?」 「みんな、そなたとの結婚の申し込みだ」 「は?」 クリフトは国王の前で、変な声が出た。いつものクリフトならこんなことはない。あまりのことに、若干平常心を失っている。 「あの…結婚の申し込みとは…?」 「エンドールやボンモールの貴族の娘の親から届いておる。遠くは、バトランドやガーデンブルグからも来ておるぞ。そなたはあちこちの城下で、見初められておるようだの」 「…………」 クリフトは頭の中で話の整理をはじめた。 確かに勇者一行として、あちらこちらの城をめぐった。ガーデンブルグでは、自分と勇者が、なんとはなしに好奇の目でも見られたようだった。 しかし、クリフトには全然興味のないことだった。 なぜならクリフトには、たぶん一生片想いを続けるであろう少女がいたから。 アリーナを想い続けて、もう何年になるかわからないほどだ。 だから全くほかの女性など目に入らなかった。 そんな自分になぜ結婚の申し込みが来るのだろう。 クリフトの結論はそこに落ち着く。 「なんだ?その顔は」 「いえ…少し驚いたものですから…」 「何を驚くことがある。そなたは悪の帝王を打ち倒し、この世界に平和を取り戻した勇者のひとりではないか。縁談が山のように来るのも当然であろう。何も不思議がることはあるまい」 「ですが私は…」 「のう、ブライ」 「は」 急に自分に振られて、ブライは少し慌てた。 「何でございましょうか、陛下」 「ブライ、おぬしならわかるであろう?旅の間中、クリフトは淑女の方々に熱いまなざしで見られておったのではないか?」 国王は愉快そうに言った。 「え?は、それはまあ…その通りでございますが…」 確かにブライは良く知っている。何度となく、クリフトはどういう人物なのか、女性やその親に尋ねられたこともあったくらいだ。そして、サントハイム城の神官だと聞いて、微笑んでいる親も何人か見かけた。 しかし、こういう状況になろうとは、さすがのブライも予測できない。 ブライも、クリフトの気持ちは良く知っている。いや、勇者一行はみな知っていた。知らぬはアリーナただ一人だった。 「聞いたか、クリフト。そなたの品行正しき行いと、その容貌が、これほどまでに世の女性を悩ませておるのだぞ。わしは慌てておる」 そんなことを言われてもクリフトにはどうしようもない。むしろ、自分がそういう風に見られていることに驚いた。 「陛下」 「まあ、急には決められないだろうが、考えてみてはどうかね?そなたが望むならサランに新居を建ててやってもよいぞ」 「陛下、私は」 |