「クリフトよ。アリーナはの」
とサントハイム王が言いかけたのを、クリフトは続きを言わせなかった。
「陛下、私は自分の立場は存じております。……そしてたった今わかりました。
私が姫様のおそばにお仕えしていることで、姫様のご縁談に差し障りがあるのでございますね?」
「いや、そういうことはないのだが」
「気づかなかったこととはいえ、本当に国王陛下にはなんとお詫びすればよいか。私が近くにいすぎたため、よいお話がだめになってしまいましては、このクリフトお詫びの申し上げようもございませんん」
「クリフト」
「姫様もやがて19歳になられます。私が気づかなくてはいけませんでした。もうおそばにお仕えしてはいけないのだと。確かに私が姫様のおそばにおりましたら、皆様方は変にお思いになることでしょう…なぜ私はそんな簡単なことに気づかなかったのか…」
「クリフト、わしはそういうつもりではないのだ」

「陛下。私は決めました」
「何を」
「ただ今から、この城を離れます」
国王もブライも、この発言に驚く。

「何を言っておる、クリフト。陛下はそのようなことは、おっしゃっておられないのじゃ。少し落ち着け」
「クリフト。誰がここを出て行けと申した」

クリフトの瞳には決意があふれている。
「陛下。私は、陛下に感謝してもしきれません。幼い頃から姫様の遊び友達としてこの城に迎えられて以来、身分不相応の贅沢をさせていただきました。姫様と変わりなく勉強もさせていただき、このように宮中づきの神官にも」
「あたりまえではないか。そなたのように優秀な神官はなかなかおらぬ」
「…恐れ入ります。陛下、私は陛下に何一つお返しできるものがありません」
「何を申しておるのか、わしにはさっぱりわからぬ」
「ですから、今ここでこの城を離れることこそが、陛下と姫様にできるたった一つのお礼なのです。今まで私をお育ていただいたことへの」

「クリフト。ではだれとも結婚はしないと」
「私は神官の身です。結婚などとんでもないことでございます」
「サントハイムでは神官やシスター、神父の結婚を禁じておらぬが」
「それに私の身分では貴族の方々とは」
「身分など関係ないからこそ、求婚されておるのだぞ」

ブライが口をはさんだ。
「…陛下。きっと陛下もご存知のことでしょう、クリフトの気持ちを…。今はクリフトを送り出してやることこそが、クリフトの幸せだと存じますが…」
国王は考え込んだ。
「そもそもどこへ行こうというのだ」
「サントハイム領の砂漠の中に大聖堂があるのです。各地の移民たちが集まり、大聖堂を建てました。私は旅の間もずっと、いつかそこの住民になりたいと思っておりました。ずいぶん何年も経ってしまいましたが、今こそ」
「そうか…それでは困るのだが…。アリーナも」
「陛下。もう姫様には私の助けは必要ございません。これからは姫様にふさわしい方が、姫様をお守りすることになるでしょう」
「……アリーナが悲しむぞ、クリフト」
「姫様は私の助けなどなくても、立派に女王陛下におなりでしょう」

国王はクリフトに尋ねた。
「……その大聖堂内には何かあるのかの?」
「何かとおっしゃいますと?」
「教会以外には何があるのかと聞いておるのだ」
「……大聖堂ですから、教会以外には何もございませんが…」



クリフトもブライも国王の真意を測りかねて怪訝そうな顔をする。

「クリフトよ」
「はい」
「アリーナはそういう所は好まぬと思うのだが……」




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