「はあ?」
クリフトはまた変な声が出た。ブライが思わず聞き返す。
「陛下、何をおっしゃっておられるのか、わしにはわからんのですが…」
「ブライ。この手紙の束を見よ」
「はあ」
ブライは何がなんだかわけがわからない。
クリフトもただ手紙を見つめているが、それでも国王の言っている意味が理解できない。

「クリフトに求婚する女性がこんなにいるとは思わなかったのだ。いやあ、わしはうかつだった。これは大変なことだ。のんびりしてはおられぬ。こんなにもアリーナのライバルがおろうとは!」
国王はからからと笑った。
「…?陛下。わしには陛下のお考えがわかりませぬが」
「ブライ。おぬしはクリフトがアリーナを好きなことはわかっておるのであろう?」
「はあ」
「アリーナもクリフトを好きなようだ。いや、アリーナにとってクリフトはいなくてはならない存在のようだ」
「???」
「ありとあらゆる縁談がアリーナにはあった。しかし、アリーナはどうしても首を縦に振らぬ。クリフトがいたからなのだな。やっとわしにはわかったのだ。こんなに近くに、アリーナにふさわしい男がいたのに、何も気づかなかったわしは愚かであるの、ブライ」
「…陛下は、姫様とクリフトを?」
「わしは娘がかわいい。アリーナの想いを尊重してやりたい。つまらぬ男だったら絶対に反対するのだが、クリフトなら大賛成だぞ。しかしこの手紙の山、うかうかしておるとクリフトをよその者に取られかねぬと思ってな。ブライ、この結婚はすばらしいと思うのだがどうかの」
「陛下。まことにさように思いますな。これ以上の縁談はございますまい」
「そうであろう」
クリフトは失神寸前だった。
「あ、あの、陛下」
「クリフト。そなたが結婚しないと申したときは、わしはどうしようかと思ったぞ。アリーナがどんなに悲しがるか」
「あ、あの、あの」
もはやクリフトには言葉を発することさえできない。
「クリフト。アリーナは今日なぜエンドールに行ったと思うのだ」
そこへバーン!と扉を開く音。思わずブライが怒鳴る。
「姫様!毎回申し上げておりますが、扉はもう少しお静かに開けていただきたいですぞ!まったくいつもいつも―」
アリーナは聞いてもいない。
「お父様!ただ今帰りました!」

「どうであったか?」
「ええ、少し手直しをすればいいそうです」
「そうか、そうか。よかったの。今、クリフトにも結婚の話をしておったところだ」
「……クリフトは何て?何て言ったの?」
アリーナはクリフトを見る。いつもの冷静なクリフトはそこにはいなかった。顔面蒼白である。アリーナはパデキアがいるのでは、と思ったほどだ。
「クリフトは直接アリーナに申したいのであろう。下がるがよいぞ」
アリーナに腕をつかまれて、引きずられるようにクリフトは出て行った。
ブライが言う。
「陛下。これでサントハイムも安泰ですな」
「まったくよのう」
国王は愉快そうに笑った。




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