サントハイム城の中庭。クリフトはアリーナにここまで引きずられて来た。
「ひ、姫様。どうか手をお離しください。私、歩けますから」
「何言ってるの。ふらふらしてるじゃないの」
アリーナはクリフトをベンチに座らせる。そして隣に勢いよく腰を下ろした。

「ねえ、クリフト。お父様からお話があったでしょう?」
「は、はあ。しかしですね、私は」
「しかしって?」
アリーナの顔が曇る。
「まさか……まさか、断ったの…?クリフトは私のこと嫌い?」
「いえ」
「私と一緒にいるのはいや?」
「いえ」
「私と結婚するのはいやなの?」


「姫様、私は」

アリーナはうつむいた。
「こんなことお父様に言って欲しくなかった」
「………」
「ちゃんとクリフトに言って欲しかった」
「………」
「でも、いつまで経ってもクリフトは何にも言ってくれない。私おばあちゃんになってしまうわ」
「姫様、私はですね」
「どうしてクリフトは何も言ってくれないんだろう、私のこと好きじゃないのかしらって悩んだわ」
「………」
「クリフトのバカ……いくじなし!」

クリフトはようやくいつもの自分を取り戻した。
感情の高まっているアリーナを見ているうちに、自分が落ち着かなくてはと思い、いつもの諭すような話し方になった。
「…姫様。私は姫様のことをずっと好きでしたよ」
「じゃあ。じゃあなぜ今まで何にも言ってくれなかったの。いつまで待てばいいと思ってるのよ!」
「姫様。姫様はいつかサントハイムの女王におなりの方です」
「そうよ、だから?」
「この私では、姫様にふさわしくありません」

会心の一撃!
ではないがクリフトにはそう思えた。クリフトの右頬をアリーナがひっぱたいた。

「何を言っているの!クリフトがそんな人だとは思わなかったわ!」
「姫様」
「あなたはいつでも私のそばにいてくれた。いつでも私を助けてくれた。でもそんなことに気づきさえしなかった。いてくれるのが当たり前だと思っていたから!」
「………」
「あの時…クリフトが死にそうだったあの時…。どんなに私が不安だったかクリフトにはわからない!クリフトには私の気持ちはわからない!」
「姫様、それはミントスでのことをおっしゃっておられるのですか」
「そうよ!私はね、あの時わかったのよ!どんなにあなたを失うことが恐ろしいか!」
アリーナはもはや怒りの表情である。怒りながらもアリーナの瞳から涙がこぼれ落ちた。
「クリフトは私がいなくてもいいの?私はクリフトと、死ぬまで一緒にいたいと思ってるのに、クリフトはそう思ってくれないの?私だけが勝手にそう考えていたの?」
「いいえ、姫様」
クリフトはいつもの優しい表情だった。そしてアリーナに静かに語りかけた。

「姫様には寂しい思いをさせてしまいましたね」
「……」
「でも、本当にそう思っていたのですよ。いつか姫様にふさわしい方が現れると。そしてその時は私はこの城を去ろうと」
「そんなこと考えるなんてあんまりだわ」
「姫様。申し訳ないことをいたしました。姫様のお気持ちも考えず、一人で決め込んでしまって、姫様を傷つけ続けていたのですね」
「ほんとよ。クリフトのバカ」
「はい。クリフトは世界一バカでした」




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