いきなり姫様は、口を極める。
「神様なんて嘘つきじゃない」
「なんてことを仰るのです」
「では聞くわ。あなたは、いつも『神の元にわれわれ人間は平等です』と言ったわ」
「ええ、そうです」
「そうじゃないじゃないの。今、私たち、そうじゃないじゃないの。クリフトは私のこと…」
「………いいえ!」

続きを聞きたくなくてかぶりを振る。姫様はそんな私をなおも責める。

「…私の…私のこと………好きだったよね?」
「………それは、お仕えしている身として」
「そして、私はクリフトがとても好きだったわ、本当に。それなのに!明日は、私は!」
「姫様!これ以上仰ってはいけません!」

姫様は私をまじまじと見つめ、顔を落とした。


「……言わないわよ、もう。今のは、ちょっとした……ちょっと、クリフトを驚かせてみたかったっていうか……
間違いよ、言葉のあやよ、そう」



後悔。失望。破綻。
頭の中を哀しい単語ばかりが駆け巡る。



連れ去ってしまえばよかった。
姫様を、抱きしめて離さないと一言言えばよかった。


神の教えなんかくそくらえだと。


私にはできない。
私にはできなかった。







「わかったことがあるの。最後の授業でやっと」
顔を上げて、姫様はやわらかく笑う。

「あなたは、いつもいつでも、神の教えが大事なのね。私よりも。この私よりも」
「いけません」
「馬鹿ね。あなたが思っているほど私は子供じゃないのよ」



神の教えよりもあなたが。
本当にあなたが。



「この私より、神様が、信仰が、大事なのね」



いいえ。
いいえ。
でもあなたはきっと信じてくれない、いいのだ。それで。
私が誰よりもあなたを愛していたことなど、あなたはご存じなくていいのだ。







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