「あなたが愛しているのは 『神よりも私を愛している、と思っているあなた』 なのよ」
「いいえ!」
「そうなのよ」
「いいえ!姫様!」


姫様は小さなため息をついた。
「馬鹿ね。あなたは私がわざとそう言っていることさえ、わからないのね」
「!」
「頭がいいのに、思いやり深い人なのに、そんなことには愚直すぎる。正直すぎるのよ、あなたは」



「さらってくれたらよかったのに。誰よりも好きだと言って、折れるくらい抱きしめて、ずっとキスしてくれたらよかったのに」
「姫様!」
「嘘よ」
「…え?」
「 『あなたにそんなことができるのだったら』 私はこれほどあなたを愛さなかったわ」
「…………」
「あなたが信仰を捨ててしまったら、私のせいで信仰を捨ててしまったら、それこそ嫌いになっていたわ。
『だってそれはあなたではなくなってしまう』 ことだもの」
「…………」


ふふっと笑ったその姫様の表情がたまらなくよかった。


「ねえ、クリフト。あなたは言ったわ。『愛のない結婚は神に対する冒涜だ』って」
「…!」
「だから。私は、あの人を愛すわ」
「…………」
「あなたへの愛とは違うかもしれないけれど。私はあの人をとても尊敬しているの。
だから私は一生懸命、あの人を愛するの。そうすれば、あなたの大事な神様だってお認めになるでしょ?」
「それは…そうですね」
「ずいぶん割り切れない言い方ね」

割りきれるもんか、そんな言葉をやっとのことで封じ込める。







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