姫様は手を差し出した。
少し傷がある手にホイミをかけようとしたら、姫様は怒り出す。
「そうじゃないでしょ」


私は顔を上げて姫様を見つめると、そこにいたのは、姫様ではなかった。


「こんなときには、手の甲にキスをしなさい」
「は、はい」
恭しく、差し出された手にキスをする。

この手を握って連れ去ってしまえばよかったのに。
握り締めようとした手を、姫様はさっと離した。



そして、姫様は、ドレスを持ち上げ丁寧にお辞儀をして。
「よく永きにわたって仕えてくれました。お別れです、クリフト、ごきげんよう」


ああ、姫様、亡くなられた女王陛下にそっくりです。
そして、もう私の姫様ではなくなって。





「アリーナ様、授業はおしまいです。お戻りを」
私は、初めて名前であなたを呼んでみた。


もう、あなたは何も言わず、気高い微笑だけ残して踵を返した。


すっかり、女王におなりなのだと。
改めて思って。







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