ルーラの着地音がした。
「ブライだわ、クリフトもやがてここに来るわね」
「姫様、クリフトが戻ってきましたら、私はサランの教会に用事がありますのでそれを済ませてまいります」
「神父様、一緒に話、聞いてみましょうよ」
「いやいや、本当に用事があるのですよ、もともと、クリフトが戻ったら、すぐ出かけようと思っておったのです」


クリフトが教会に入ってきた。
「神父様、ただいま戻りました。おや、姫様、今日の勉強はもうお済みなのですか」
「人の顔見ると、勉強勉強って、ここでは神父様もクリフトもそれしか言わないんだから」
「これは失礼いたしました。神父様、お菓子を頂きましたので、お茶にしませんか、姫様もご一緒に」

「ゴットサイドまんじゅうとかいうんじゃないでしょうね」
クリフトは怪訝な顔をした。
「なぜ、ゴットサイドに行ったことをご存知なのですか?」
神父が口を挟む。
「私が姫様に申し上げたのだよ、クリフト。お菓子も頂きたいが、あいにく今からサランに行かなくてはならん。 クリフト、後をよろしく頼む」
「はい、かしこまりました」


教会にはクリフトとアリーナだけになった。
「では、お茶を淹れましょうか。残念ながらゴットサイドまんじゅうではありませんよ、姫様」
「だって、トルネコさんがよく言ってたもんだから。名物は何かな、とか、名物を作って売り出すべきだ、とか」
「ゴットサイドのシスターの皆さんが、クッキーを焼かれておりまして。手土産にと、たくさん頂きました」
「私がお茶の支度をするわ、クリフト、疲れてるでしょ、座ってなさいよ」
「姫様、お茶を淹れることがおできになるのですか」
「失礼ね、そのくらいできるわよ。いつもクリフトのを見てるもの。まあ、見ててよ」


オレンジピールの香りが部屋に漂う。


「ああ、いい香りですね、とてもおいしく頂きました」
「ね、私にもできるでしょ」
「ええ、大変失礼いたしました」


ハーブティーを飲みながらアリーナが尋ねる。
「ねえ、どうしてゴットサイドに行くことを黙っていたの?」
「特に申し上げる必要もないと思ったものですから…いわゆる表敬訪問というものでして」
「嘘。仕官の誘いを断りにいったんでしょ」
「なぜそれを!……神父様からお聞きになったのですか」
「黙っていたのはなぜ。断りに行くんなら、黙ってることないじゃないの。仕官を受けるのなら、黙っていても当然だけど」




「お代わりをいただけますか?」
アリーナはティーポットを傾けた。静かな時間が流れる。







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