「それで?どうして黙っていたの?仕官の話」
「余計な心配をおかけしたくなかったんです」
「ゴットサイドに限らず、各国から誘われてるそうじゃないの」
「ええ。私ごとき者に、いったい何を期待されてるのか理解しかねます」
「きっとそういうところよ。控えめなところ」
「私は表立ってどうこうというのが苦手なだけですから」


神父がそう言ったからかも知れないが、確かにクリフトは疲れているように見える。
毎日顔を突き合わせていながら、なぜ、気づかなかったのだろうと、アリーナは思った。
もっと早く気づいていれば。


「なんか元気ないわね」
「そんなことはありません。ただ……」
「ただ?」
「姫様はお偉いな、と最近、いつも思っているんです」
「あらあら、何も出ないわよ」
「本当ですよ」

「……いったいどうしたの?」
「姫様は、いつも誰かに見られているということに慣れていらっしゃるのですね」
「……え…?」
「私は…とても……そういうことには……」


やっとクリフトの悩みが分かった、とアリーナは思った。
そうだ、そういえば、思い当たる節がある。
謁見の時間、教会はどこにあるかよく尋ねられるようになった。
アリーナは国王のそばで控えているだけだが、王の謁見と教会とになんの関係があるのかと思っていただけだった。
クリフトを見たいがためだったのか、とようやく分かったのだ。

そもそも、アリーナは謁見の時間がとても苦手だった。
謁見は国王がやるのだが、王室の慣わしとして、アリーナも国王の隣で話を聞いていなくてはいけない。
ブライに叱られるので、王女らしい格好をして、しぶしぶ座っているが、きちんと座っているのがどうにも堅苦しくて仕方ないのである。
アリーナたちが戻ってきて以来、謁見の時間が以前より長くなってしまっていることも一因だった。
昔と同じ時間配分では、たくさんの謁見希望に対処しきれなくなっていたからだ。
しかし、ブライや大臣から「次期女王の務めです!」などと言われるものだから、しぶしぶ(顔では笑顔を作りつつ)控えているのだった。
そうはいっても、クリフトの言うとおり「慣れている」。
いつも誰かに見られていることに慣れているし、小さい頃からそう言い聞かされて育てられたのだ。

「あなたは王女なのだから、いつどんなときでも人から見られていることを意識していないといけませんよ」
母親からよく聞かされていたが、あまりそのときは意味は分かっていなかった。
だが無意識に、見られていることに慣れてはいたのだ。
周りにいつも人がいて。


王女様だよ!
王女様が手をお振りになったよ!
王女様は、おてんばで元気いっぱいだね!
王女様、こっち向いてください!


自分の周りに人がいることが至極当たり前で、手を振ってみたり、笑いかけてみたり、そういうのを無意識のうちにやっていたのだ。
そして、それ自体が苦痛になってはいなかった。


昔からそうだったから。







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