だが。
クリフトは違うのだ。
冒険前は静かに聖書を読んでいただけの神官に過ぎなかったのに。

せいぜい女官たちが、クリフトの追っかけみたいなことをやっていたくらいだったのに。

今は、そうではなくなってしまっていたのだった。
うかつにもアリーナは気づいていなかった。

人の目にさらされる生活に「慣れて」いたからだ。

そして、最近、なんとなくだが、クリフトに対する周りの反応にちょっともやもやするものを感じてもいたのだ。


「しんどかったのね、注目を浴びていることに疲れているのね」
「私など、姫様や勇者様の手伝いをした一神官に過ぎません。いったいどうしてこうなってしまっているのか分かりません」
「でも、仕官の誘いには律儀に断りの書状を書き、今日みたいに直接出向いたりもしてるのね」
「せっかくお誘いくださっているのに失礼があってはいけませんから。それはサントハイム国からしても失礼に当たりますし」
「どうして言わなかったの。しばらく城を離れることだってできたのに」
「そこまでのことではありません」
「でもしんどいんでしょう、神父様もおっしゃっていたわ、最近のクリフトは疲れているって」
「大丈夫ですよ、今はこんな風ですが、もうしばらくすれば収まるでしょう。そもそもが過大評価なのです」
「クリフトが自分のことを過小評価しすぎなのよ」
クリフトは笑った。
「そうでしょうか、光栄に思います。でも私はサントハイムを離れるつもりは毛頭ありませんので。国王陛下や姫様がよろしければの話ですが」
「よろしくないはずないじゃないの。クリフトはサントハイムに………」
「姫様?」


「ほんとにどこにも行く気はないのね?」
「ええ」


アリーナは顔を伏せた。
「サントハイムに必要な人だもの、と言おうとしたの」
「ありがとうございます」
「そうではないわ」
「えっ……?私はこの国に不必要な人間なのですか」



「………私にね…」
「よく聞こえません、顔を上げて話してくださいますか」



アリーナは顔を上げた。
「あなたがいなくなるかもしれないって思ったら」
「はい」




「私に必要な人だもの、と言い換えたくなったのよ」







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