・勇者の苦悩

「何か言いたいことがあるようだな」
「……当然だろう。村を滅ぼしたお前を」
「絶対に許せない、とでも言いたいか」
「…………」
「私は私の信念でお前の村を滅ぼしたのだ。いささかも後悔していない。間違ってもいない」
「…………」
「ロザリーを助けてくれたことには礼を言っておこう。だが覚えておくがよい。
私と人間とは決して相容れないものだということを」
「こちらも同じつもりだが」
「ほう」
「勝負してもらおうか、今こそ、シンシアの恨み、村の人たちの恨み、晴らしてやる!」
「面白い!かかってくるがよい!しょせん勇者の力など、この私には通じぬぞ!」

その日、真夜中の闇が二人の手元を見えなくするまで、剣と剣がぶつかり合った。

ソロの苦しみを軽くするのは、こうしてピサロと戦うことしかなかった。
とにかく自分を傷つけてほしかった。これから二人が分かり合うためにも。

ピサロもソロも、お互い相手にとことん叩きのめされたいと思っている夜。



・サントハイムの優しさ

「ピサロって強いよねえ!私、今度、一対一で戦ってみたいなあ」
「姫様でも、ちょっと苦戦なさるかもですね」
「何よ、クリフトは。私に応援してくれないの?」
「そんな!私はいつも姫様の味方です!!」
「あら?ブライ、何しょげてるの?」
「魔族の王と仲良く戦うなどもってのほかですじゃ」
「仲良く戦うって、変なの。それにブライ。城のみんなは戻ってくるのよ」
「何をおっしゃる。そういう意味ではありませんぞ。
これ以上姫様がお強くなったら、もうわしは国王陛下にあわせる顔がないと言いたいのですぞ!」

クリフトは二人の様子を見て笑っている。

「だいたい姫様は、ちょっと強い者を見るとすぐ勝負をなさりたがる。
なくなられたお妃様はそれはもうおしとやかな方でしたのに。姫様!まだ話は終わっておりませぬぞ!」

アリーナは聞いていないように見える。

「クリフト、お茶淹れてくれる?」
「姫様、人の話は最後まで聞くものですぞ!」
「ブライ。そーんなカリカリしないで、ほらクリフトがお茶淹れてくれるって。一緒に飲もうよ。
クリフト、すっごくお茶淹れるのうまいのよ」
「ブライ様、どうぞ。姫様も」

「ブライ、ピサロだってかわいそうな人なのよ。それ、わかってあげて」
「ブライ様。姫様はサントハイムに人々が戻ってくるのを信じておられるのです。だからこそ」
「そんなことわしだってわかっておる!わしはロザリーさんが生き返ってほっとしておるのですぞ!」
「ブライ、ああいう人がタイプなの」
「わしはしとやかな女性は、みなよいと思っておるのですが。
どこぞの姫君のようにおてんばはちと困りものですな。のう、クリフト」
「私は姫様以外の女性はみな、なんとも思いません……あ、ち、違うんですよ!
姫様!ブライ様!その…あの…女性はみなすばらしいのですが、姫様は特にすばらしいと。あ、いえ、その」


にぎやかなサントハイム一行を見つめるピサロとロザリー。

「お優しいのですね、あの方たちは」
「どういうことだ」
「……ピサロ様。…サントハイムの方々を行方不明にされたのでしょう?」
「………だから何だ。ロザリー、私が人間を滅ぼそうとしているのは、お前を救うためなのだ。
サントハイムの件についてもしかりだ」
「ピサロ様、あの方たちはわざとそれに触れないようになさっておられるのです」

ロザリーはピサロを見上げた。何も言わないピサロだが、瞳には優しさが戻っているようにロザリーには見えた。







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