「久しぶりね、クリフト」
「はい」
「手紙もよこさないで、行く先も知らせないで。ここにいたんだ」
「申し訳ございません」
「元気にしてた?」
「はい。姫様もお元気そうで何よりです」
「それしか取り柄がないから」
「そんなことはございません」
静かなときが流れる。

しばしの沈黙が続いた。
突然アリーナが口を開いた。
「クリフト、私ずっとクリフトに謝りたかったの」
「謝るって何を」
「あの時、クリフトと喧嘩したまま会えなくなってしまったでしょう。クリフトのバカって怒鳴っちゃったでしょう。私、すごく後悔してたの」
「気にしていませんよ、全然」
「まさか、もう二度と会えなくなるとは思ってなかったの。でも、クリフトとはあれが最後だったのよね。あんな別れ方をしてほんとに苦しかったの。ごめんね、ひどいことを言って」
「いえ」

クリフトは2杯目の紅茶を淹れに席をたった。涙腺が緩んでしまいそうだった。気を奮い立たせて、席に戻った。

「姫様はあれからご結婚なさって、お幸せにお暮らしなのだそうですね」
「うん、まあ」
「お優しい方なのですね、姫様のご主人は」
「そうね、とてもいい人よ」
「陛下やブライ様はいかがお過ごしでしょうか」
「お父様は相変わらず私にお小言ばかりおっしゃるわ。ブライはブライで、早く女王としての勉強をしろしろとうるさいことこの上ないわ。ブライのあの調子なら、100歳を超えても生きられるわね」
「そうですか」
「でもね、前とは違うよ、やっぱり」
「?」

「なんか城全体が、少し寂しい雰囲気よ、クリフトがいなくなってから。神父様はしばらくは気落ちなさってらっしゃったし、みんなすごく寂しそうだった。やっぱりクリフトの存在は大きかったのよ、サントハイムにとって」
「…………」
「10年も前のことなのにね」
「でも今は、またにぎやかになってきたのでしょう?確か王子様がお生まれになったとか」
「よく知ってるのね」
クリフトは苦笑した。
「お父様も大臣もブライも、早く世継ぎを生め生めって、人のこと何だと思ってるのかしら、とすごく腹が立ったけど、生まれてみれば子供ってかわいいわよ。…なんか見たところクリフトはまだ独身みたいね。早く結婚すればいいのに」
「…………」
「あれからずっと一人なの」
「はい」
「クリフトだったらすぐにでも、結婚したいっていう女性があらわれそうなのになあ」
「そんな物好きな方はいらっしゃいません」

また沈黙が続く。





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