ダール公はさらに言葉を続けた。

「私を許して欲しいのです」
「なぜそんなことをおっしゃるのですか」
「……あなたの居場所をひょっとしてアリーナは知っているのではと思っていた。もしそうであれば、いつでもサントハイムに来てもらっていいのだと言いたかった」
「…………」
「だが私は一度もそれを言えなかった。何度もそう言おうとした、でもできなかった。あなたが来ることでアリーナの心がゆれるのが怖かった。そういう心の狭い人間なのです、私は」


ああ、姫様はきっと、亡くなるそのときまでお幸せだったのだ、とクリフトは思う。


「………いいえ、あなたは姫様のお気持ちを思いやることのできる心のあたたかい方なのです。だからこそ姫様が一生の伴侶としてあなたを選ばれたのです」
「……それは…神父としておっしゃっておられるのですか?」
「え?」
「いや、失礼な言葉でした。素直に受けておきましょう。ただこれだけは申し上げたい。あなたがいたからアリーナは幸せだったんです。ありがとう、本当に。そして、会わせなかった私を許して欲しいのです」
「いいえ、私は自分で会うまいと決めていたのです。私では何もできませんでした。あなたが姫様を幸せにしてくださったのです」
「私も幸せだった、アリーナと暮らせて」
「それこそが姫様への一番のはなむけかと」
「あなたはやはりすばらしい方だ。アリーナが惚れるのも無理はない」
「………私は」
「もうやめましょう。アリーナの本当の気持ちはアリーナにしかわからないのですから」
「はい」



大事な人を失った共通点を持つ二人は、今は柔らかな微笑を見せた。



「今日はぜひここにお泊まり頂きたいのですが」
「ありがたいのですが、島をそんなに長くは空けられないのです」
「そうですか…でもアリーナの墓にはいらしてください」
「ええ、帰りに寄らせていただきます」
「では、私からエンドールに連絡しておきましょう。船を出しておくのでお使いになられてください」
「ありがとうございます」
「クリフト殿、また来てください。私はあなたともっと話がしたい」
「ええ、いつかまた」






エンドールまで送らせましょうという申し出を受けず、見送りさえも丁寧に断って
クリフトはサントハイム城を後にした。



彼はもう二度と来ることはない。







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