(王家の墓へ 第4章にかえて)
クリフトは王家の墓に寄る前に、徒歩でサントハイム領を巡った。 もう来ない。最後のサントハイム領。 テンペ。 今は、忌まわしい記憶とは無縁の穏やかな村。 村の入り口にある墓場で祈りを捧げた。 「これは旅の神父様。テンペへ、ようこそ」 村人が声をかけた。 「びっくりされたでしょう?こんなに多くの墓。昔、ここは呪われた村だったんです。 ですがある時、村を苦しめていた魔物を退治してくれた少女がいたんです。神父様、驚かないでくださいよ。その少女は、実は後のサントハイムの女王陛下だったんです。こないだ亡くなられたのですが」 「そうですか」 「私はあの人に憧れてたんです、まさかお姫様だとは知らなかったので。まあ私はあの頃、ほんの子供だったから、相手にされるわけなかったんですけど」 ああ、この人はあの時の小さな男の子か! 「私も村のみんなも、ほんとに女王陛下を尊敬してました。とても思いやりのある方でした。なんといっても、この村を救ってくれた人が女王様だったのですから、テンペ住民であることを誇りにさえ思うんです」 そういえば、この村から姫様との旅が始まったようなものだ。 クリフトは、かごの中でドキドキしながら小さくなっていた自分が、よみがえるようだった。 噴水のある町、フレノール。 二人きりで歩きたいと思った、綺麗な町。 ニセ姫事件があったり、黄金の腕輪を探したり、結構しんどかった町。 今はそれらのすべてが懐かしい。 あの頃が一番幸せだった……そう思って苦笑した。年を取ったな。 |