あの元気いっぱいだった姫様が、この下にいるなんて嘘に決まっている。
今まで見てきたこと、聞いてきたことは、夢だったのだ。
その証拠に、ほら、姫様の声が聞こえる。



なんだ、やはりいらしたのではありませんか。


*なんかだらしないのね

「姫様、だらしないとは失礼でございます」


*だってそうじゃない   現実から逃げるなんて   クリフトらしくないよ

「逃げることしかできなくて」


*クリフトはそんな人じゃなかった   
  今のクリフトは   クリフトじゃない   みそこなったわ

「…………」


*いなくなったんじゃないわ   ちょっと見えないところに行っただけでしょ    
   いつも あなたはそう言っていたじゃないの   
  お母様のときも   お父様のときも   ブライのときも   そう言ってくれたじゃないの

「自分のことになると、うまく心をとりなすことができないのです」


*しっかりなさい   そんなクリフトには会いたくない

「すみません。立て直しがきかなくて」


*今まで   ずっと耐えてきたでしょう
  私たち別々の道を歩いていたでしょう
   どこが違うの   変わらないわ

「それは姫様が生きておいでだったからです。たとえ遠く離れていてもそのことが私の心の支えでした」


*いい?   いつか会えるの
   たまたま私がちょっと早かっただけじゃないの   約束したでしょ?

「…………その約束は」


*何?

「いえ、何でもありません。約束ですね」


*また何か隠してるのね   いいわ   向こうでじっくり聞くから

「…………」


*クリフト   私はいつもあなたといるのに   私はここにいるるでしょ

「はい、そうでした。いつも姫様はおいででした」


*そうよ   いつもクリフトと一緒にいるよ
   あ   ごめん   ブライが来たから失礼するね
   あんまり急いで来ちゃダメよ   ブライの小言は聞きたくないでしょ

「姫様、お元気で…、は変ですか」

*あはは   そうねー   うん   じゃあ   クリフトも元気でね






死んだ人と話せるわけないだろ
は、勘弁してください。



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